飲酒運転防止条例

 

アルコールインターロック

 

アルコールインターロック条例(案)を考えてみた。千葉県の飲酒運転根絶条例可決を受けて。

2021.12.27

 

 

去る2021年12月21日、千葉県議会にて、『千葉県飲酒運転の根絶を実現するための条例』制定が可決されました。

千葉県ウェブサイト 県議会 令和3年12月定例県議会議案一覧 より

 

さて、どんな内容でしょうか?

本誌で期待しておりました、飲酒運転検挙者へのアルコールインターロックの装着義務は、条例に入っていたのでしょうか・・?

今日時点では、千葉県の公式ウェブサイトに公布原文はないようです。従いまして、本条例を提出した議員のウェブサイトから、公布予定の条文を見てみたいと思います。

「(仮称)千葉県飲酒運転の根絶を実現するための条例」(案)」より一条づつ見ていきましょう。既存の法令施行年等、分以上不要な部分を省略しました。

冒頭(背景、理念)

 令和三年六月二十八日、本県八街市において、自家用トラックの飲酒運転により、児童二人のかけがえのない尊い命が奪われ、三人が重篤となる痛ましく筆舌に尽くしがたい交通事故が発生した。
 県民は、この悲惨な事故に大きな衝撃を受け、飲酒運転は絶対に許されるべきではないと改めて痛感したところである。
 飲酒運転に関しては、これまで、度重なる法改正によって厳罰化がなされてきたほか、県においても、飲酒運転の根絶を図るべく様々な対策を講じてきたところであるが、今回の事故の発生により、いまだにその対策が十分でないことが明らかとなった。
 飲酒運転で検挙される者が跡を絶たない現状において、飲酒運転の根絶に向けた対策を一層強化する必要があることは言うまでもないが、そのためには、運転者一人一人のみならずその雇用主等まで含めた徹底した法令遵守をはじめ、県民の飲酒運転の根絶に対する意識を向上させるための啓発や県民総ぐるみで対策を講じるための体制の充実等を図ることが急務である。
 私たちは、これ以上、極めて悪質かつ危険な犯罪である飲酒運転が、県民の安全で安心な日々の生活を脅かす状況を見過ごすわけにはいかない。
よって、私たちは、関係する機関及び団体はもとより、家庭、学校、職場、地域等が一丸となって飲酒運転の根絶に取り組むことを決意し、ここに(仮称)千葉県飲酒運転の根絶を実現するための条例を制定する。

 

第一条 目的

(目的)
 第一条 この条例は、飲酒運転の根絶に関し、県の責務及び県民、事業者等の役割を明らかにするとともに、施策の基本的な事項を定めることにより、飲酒運転の根絶に関する施策を総合的に推進し、もって飲酒運転のない、県民の誰もが安心して暮らすことができる地域社会の実現に寄与することを目的とする。

 

第二条 定義 

(定義)
第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 自動車等 道路交通法第二条第一項第九号に規定する自動車、同項第十号に規定する原動機付自転車及び同項第十一号の二に規定する自転車をう。
二 飲酒運転 酒気を帯びて自動車等を運転する行為をいう。
三 飲食店営業者 営業の形態にかかわらず、店舗その他の設備(以下「飲食店」という。)を設けて客に飲食をさせる営業(酒類を提供するものに限る。)を行う者をいう。
四 酒類販売業者 酒税法 第九条第一項に規定する販売業免許を受けて酒類を販売する者(同項に規定する販売場において対面により販売するものに限る。)をいう。
五 タクシー事業者 道路運送法 第九条の三第一項に規定する一般乗用旅客自動車運送事業者をいう。
六 運転代行業者 自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律第二条第二項に規定する自動車運転代行業者をいう。
七 駐車場所有者等 駐車場法 第二条第二号に規定する路外駐車場(以下「駐車場」という。)を所有し、又は管理する者をいう。

 

第三条 公職にある者の率先垂範

(公職にある者の率先垂範)

第三条 知事、県議会議員その他の県の特別職である者及び県職員(県の執行機関及び議会の事務を補助する職員であって、地方公務員法 第三条第二項に規定する一般職であるものをいう。)は、自らの行動を厳しく律するとともに、県民に範を示すべき立場であることを深く自覚し、飲酒運転をしない、させない、許さないという強固な決意をもって、飲酒運転の根絶に率先して取り組むものとする。

2 公職にある者(公職選挙法 第三条に規定する職にある者並びに国及び地方公共団体の職員をいう。)及びこれに準ずる者(前項の者を除く。)は、同項の趣旨を踏まえ、飲酒運転の根絶に率先して取り組むよう努めるものとする。

 

第四条 県の責務

(県の責務)
第四条 県は、国、市町村、県民、事業者その他飲酒運転の根絶に関する活動を行う団体(以下「関係団体」という。)と相互に連携協力して、飲酒運転の根絶を図るための総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。
2 県は、市町村、県民、事業者及び関係団体が実施する飲酒運転の根絶を図るための取組を促進するため、助言その他の必要な支援を行うものとする。

第五条 県民の役割

(県民の役割)
第五条 県民は、飲酒運転が重大な交通事故を引き起こす原因となることを自覚した上で、次の各号に掲げる事項を遵守するものとする。
一 飲酒運転をしないこと。
二 自動車等を運転する必要がある場合又はその必要が生じると見込まれる場合であって、飲酒することにより酒気を帯びて自動車等を運転することとなるおそれがあるときは、飲酒しないこと。
2 県民は、飲酒運転が重大な交通事故を引き起こす蓋然性が高く、かつ、重大な違法行為であること及び飲酒が身体に及ぼす影響について理解を深めるとともに、家庭、職場、地域等において、飲酒運転の根絶を図るための取組を自主的かつ積極的に行うよう努めるものとする。
3 県民は、国、県及び市町村が実施する飲酒運転の根絶を図るための施策に協力するよう努めるものとする。

 

第六条 事業者の役割

(事業者の役割)
第六条 事業者は、その事業の用に供する自動車等の運行に当たっては、当該自動車等の運転をする者が酒気を帯びていないことを確認する等、飲酒運転を防止するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。この場合において、事業者は、貨物自動車運送事業輸送安全規則(平成二年運輸省令第二十二号)第七条第四項に規定するアルコール検知器その他の飲酒運転の防止に資する機器を積極的に活用すること等により、飲酒運転の防止が確実に図られるよう配慮するものとする。
2 事業者は、その従業員に対し、飲酒運転の根絶に関する教育、指導その他必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
3 事業者は、国、県及び市町村が実施する飲酒運転の根絶を図るための施策に協力するよう努めるものとする。

 

第七条 飲食店営業者の役割

(飲食店営業者の役割)
第七条 飲食店営業者は、その営む飲食店ごとに、その利用をする者(以下この条及び第十二条第二項において「利用客」という。)が見やすい場所に、県、関係団体その他関係者が提供する立看板、貼り札、ポスターその他の飲酒運転の根絶に関する意識の啓発を図るための広告物(以下「啓発文書」という。)及び飲酒運転をするおそれのある利用客に対しては酒類を提供しない旨の表示を掲示するよう努めるものとする。
2 飲食店営業者は、利用客の飲酒運転を防止するために必要な次の各号に掲げる措置を講ずるよう努めるものとする。
一 酒類の提供を求める利用客に対し、当該飲食店までの交通手段を確認すること。
二 前号の規定により確認した交通手段が自動車等の場合にあっては、当該利用客が講ずる飲酒運転を防止するための措置を確認すること。
三 前号の規定による確認ができない場合及び当該確認をした措置では利用客の飲酒運転を防止することができないおそれがあると認める場合にあっては、当該利用客に対して酒類の提供をしないこと。
四 当該飲食店に利用客の用に供する駐車場が設置されている場合は、当該駐車場の見やすい場所に、啓発文書を掲示すること。

 

第八条

(酒類販売業者の役割)
第八条 酒類販売業者は、その営む店舗ごとに、その利用をする者(以下この条及び第十二条第二項において「来店者」という。)が見やすい場所に、啓発文書を掲示するよう努めるものとする。
2 酒類販売業者及びその従業員は、来店者が飲酒運転をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由があるときは、これを制止するよう努めるものとする。

 

第九条  タクシー事業者及び運転代行業者の役割

(タクシー事業者及び運転代行業者の役割)
第九条 タクシー事業者及び運転代行業者は、県民に対し、その事業を利用すること等により飲酒運転の防止を図るべき旨の広報を行うよう努めるものとする。
2 タクシー事業者及び運転代行業者並びにそれらの従業員は、その事業を利用した者が飲酒運転をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由があるときは、これを制止することその他の当該事業を利用した者の飲酒運転を防止するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 

第十条 駐車場所有者等の役割

(駐車場所有者等の役割)
第十条 駐車場所有者等は、その所有し、又は管理する駐車場ごとに、その利用をする者が見やすい場所に、啓発文書を掲示するよう努めるものとする。

 

第十一条 イベント等主催者の役割

(イベント等主催者の役割)
第十一条 イベント等(多数の者が集合する催しをいう。以下同じ。)を主催するものは、そのイベント等に参加する者による飲酒が想定される場合には、当該イベント等に参加する者に対し、飲酒運転の根絶に関する意識の啓発その他の飲酒運転を防止するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 

第十二条 通報

(通報)
第十二条 県民は、飲酒運転をしている者又はその疑いのある者を発見したときは、速やかにその旨を警察官に通報するよう努めなければならない。
2 飲食店営業者及び酒類販売業者並びにそれらの従業員は、利用客又は来店者が飲酒運転をしていることを確認したとき又は飲酒運転をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由があるときは、速やかにその旨を警察官に通報するよう努めなければならない。
3 タクシー事業者及び運転代行業者並びにそれらの従業員は、その事業を利用した者が飲酒運転をしていることを確認したとき又は飲酒運転をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由があるときは、速やかにその旨を警察官に通報するよう努めなければならない。

 

第十三条  教育及び知識の普及

(教育及び知識の普及)
第十三条 県は、飲酒運転の根絶に関する県民の理解を深めるため、飲酒運転の根絶に関する教育の充実、知識の普及のための広報及び啓発その他の必要な措置を講ずるものとする。

 

第十四条  再発防止のための措置

(再発防止のための措置)
第十四条 県は、飲酒運転をした者に対し、飲酒運転の再発を防止するための教育その他必要な措置を講ずるものとする。

 

第十五条 情報の提供等

(情報の提供等)
第十五条 県は、県民、事業者等が行う飲酒運転の根絶に関する取組に資するため、飲酒運転による交通事故の発生状況等に関する情報の収集、整理及び分析を行い、県民、事業者等に対し、その結果を提供するものとする。

 

第十六条  千葉県飲酒運転根絶連絡協議会

(千葉県飲酒運転根絶連絡協議会)
第十六条 県は、県の執行機関、関係団体その他の関係者により構成される千葉県飲酒運転根絶連絡協議会(以下「連絡協議会」という。)を置く。
2 連絡協議会は、飲酒運転の根絶に関する施策の実施に関し必要な協議及び調整を行うものとする。
3 前二項に定めるもののほか、連絡協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、知事が定める。

 

第十七条 表彰

(表彰)
第十七条 知事は、飲酒運転の根絶に関し顕著な功績があったと認められるものについて、表彰することができる。

 

第十八条

(財政上の措置)
第十八条 県は、飲酒運転の根絶に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるものとする。

  

みなさん、如何でしたでしょうか? これが、飲酒運転根絶条例です。

スゴい厳しいな・・! という感想でしょうか? それとも、コレだけで根絶を達成できるのカナ・・? という疑問でしょうか?

飲酒運転根絶条例 9例 22市町村

道路交通法や道路運送法の罰則だけでは「根絶」を果たせないことは明白であり、とくに、悲痛な事故を経験した一部都道府県において、ここ10年で、独自で条例により飲酒運転根絶を目指す動きが出てきています。

photo by pixta

飲酒運転を根絶するため、これまで都道府県や自治体は、「条例」をつくってきました。似通った条項もあれば、各都道府県、独自の対策を取り入れたパターンもあります。

なかでも、飲酒運転違反者に対し、アルコール依存症であるか否かを診察させる医療機関での「受診義務」や、依存症と判定された場合の「治療義務」を設けた福岡の例が特徴的です。他にも、「通報制度」や「飲食店への指導」問う、ガンバロウ!キヲツケヨウ!系とは一線を画す条項を持つ事例が増えてきました。


詳細は、本誌「飲酒運転根絶を条例で」を参照ください。

 

アルコールインターロック 条項のある条例はあるか?

 

このたび、最新の千葉をふくめた10の都道府県条例のすべての条項を調査分析してみました。

(ダウンロードファイルはMSエクセルです)

 

違反者への受診義務や治療義務はありますが、違反者へのアルコールインターロック装着義務は、ありません。

 

まとめると、こうなります。

 

 

千葉県の条例、幻の「第19条」を妄想してみる。

 

入れるとするなら、こんな感じでしょうか・・。

 

第19条 アルコール・インターロック装着施行規則

1 県知事は、飲酒運転をした者で、かつ、車両を所有し、運転免許証返却後も運転する意思のある者に対し、アルコールインターロックの装着を科すことができる。装着期間は、36ヶ月とする。

2 免許停止後に運転免許を返却する条件は、所有する車両にアルコールインターロックが装着されていることとする。

3 2で返却される運転免許は、「アルコールインターロック装着車両限定免許」とし、他人の車両、レンタカー等を運転することはできないこととする。

4 県知事が科すアルコールインターロック装置とは、国土交通省の「呼気アルコールインターロック技術指針」に適合する装置であることとする。適合装置の選定、および適合装置の指定装着事業者の選定は、千葉県飲酒運転根絶連絡協議会が行うこととする。

5 呼気アルコールインターロック装置の購入財源は、第十八条 財政上の措置に基づき、県が(いったん)負担する。

6 アルコールインターロック装着者は、装着後、連絡協議会に定期的にデータを提出しなければならない。その際に、連絡協議会は装置の使用料を運転者から徴収することができる(結果的に、財政負担はなく、個人負担となる)。

7 最初の12ヶ月間に、飲酒検知されたデータ及び不正始動のデータがなければ装着期間を24ヶ月で終え、通常の運転免許条件に復帰することができる。

 

違反者向けのアルコールインターロックとは、購入負担・装着負担を本人とすることで(特定目的税的、用途の決まった罰金徴収)、行政や国家の負担なく飲酒運転車両を路上から減らす、優れた社会システムなのです。


・運転者(殺人者にならない・運転免許の維持=win)
・路上(死者が増えない=win)
・行政(金額負担がない=win)
・インターロックメーカー(売上増・社員増・技術再投資=win)
・インターロック装着事業者(売上増=win)
・財政(インターロック事業者法人税増=win)
 

実は、6方良し。欧米でアルコールインターロックの社会実装が進んでいるのには、このエコシステムが機能しているからと言えるでしょう。

飲酒運転者2万人、再犯者50%以上

2020年度、飲酒運転は2万件以上ありました。


そして、警察庁によれば、違反者のうち、57%が再犯者であるという調査結果があります。

お酒を一滴も飲まないヒトの車に装着する前に、飲酒運転をしたひとに、国家や自治体(県警)が自費でつけなさい、と命令するだけです。実にシンプル。

技術指針もあり、メーカーもあり、取付事業者もいる。受診義務、治療義務という、県独自の条例の例もあります。

何が難しいですか?  誰か、損していますか? 社会ベネフィット、ないですか?

  

県知事殿 第19条追加は難しいですか?

 

 
 撮影日 2021年12月27日 冬の晴天 千葉県八街市にて