事業用自動車に係る総合的安全対策検討委員会 に申し上げたい。
P6,P7に、緑ナンバー飲酒運転ゼロ について施策が掲げられている。
飲酒運転対策については、これまでも、点呼時におけるアルコール検知器使用の義務付け等の施策により、一定の効果が確認されているが、それ以降も、点呼前に飲酒していたにも関わらず点呼時に適切なアルコールチェックが行われなかった事例や、点呼後の乗務中に飲酒に及ぶ事例が確認されており、確実に飲酒運転を防止する対策を実施する必要がある。加えて、飲酒運転の背景には、アルコール依存症等との関連も想定されることから、事業者は、運転者に対して、運転者自身の飲酒傾向の自覚を促すような指導監督を行う必要がある。
施策例
・点呼の正しいタイミングの周知や、アルコール検知器の要件追加による、点呼時のアルコールチェックの強化 。
・運転者に対する、自身の飲酒傾向の自覚を促す指導監督の推進 。
・初任運転者に対する、飲酒傾向の確認や重点的なアルコールチェックによる飲酒運転の習慣化の防止
・ 事業者の優良取組事例やアルコール依存症に係る周知
文末にはこのように、施策実施者の対応表がある。
現在、安全プランのなかでも、特に飲酒運転が、実に厳しい経過・結果となっている。
トラック協会の資料によれば、令和5年(2023)年には、急増している模様。
施策例にあるように「啓発」や「強化」、「周知」「周知・徹底」等、強制力のない措置であったり、事業者の教育の自主性に任せている系の措置であることが、裏目にでていると言えよう。
先般、群馬県の事件(事故)は、仮に、点呼後の飲酒という報道が事実だとすれば、システムであろうが啓発であろうが周知であろうが、あらゆる関係者・業界の努力を無駄にするような本当に悪意ある悪質な事案であり、言葉もない。
本誌としては、事業用自動車の飲酒運転根絶のための施策を これまでも提言してきているが、今回の件で、あらためて、次期安全プランに盛りむべき、具体的な提言をひとつ加えたい。
プロドライバーの法的定義。
プロドライバーの定義は、運転免許保有の有無ではない。トラック会社のドライバーだからプロドライバーではない。
プロドライバーとは、貨物自動車運動事業法 輸送安全規則が定義するものであり、厳密に言うと
1)9条5に基づき 運転者台帳に記載され、選任された者
2)10条 従業員に対する指導及び監督 が定める適性診断受講義務を満たす
3)告示1366号に基づき教育を受けた者
この3つをすべて満たす者である。
これを満たさない者は、緑ナンバーのトラックで運行してはいけないし、事業者も運行させてはいけない。
「点呼を受けさせてはならない」とも言えるのである。
提言1「運転者台帳を改正し、AUDIT実施と点数記載を義務化する」
”第九条の五一般貨物自動車運送事業者等は、運転者等ごとに、第一号から第九号までに掲げる事項を記載し、かつ、第十号に掲げる写真を貼り付けた一定の様式の運転者等台帳を作成し、これを当該運転者等の属する営業所に備えて置かなければならない”
一、作成番号及び作成年月日 |
二、事業者の氏名又は名称 |
三、運転者等の氏名、生年月日及び住所 |
四、雇入れの年月日及び運転者等に選任された年月日 |
五、運転者に対しては、道路交通法に規定する運転免許に関する次の事項 |
イ 運転免許証の番号及び有効期限 |
ロ 運転免許の年月日及び種類 |
ハ 運転免許に条件が付されている場合は、当該条件 |
六、事故を引き起こした場合は、その概要 |
七、道路交通法第百八条の三十四の規定による通知を受けた場合は、その概要 |
八、運転者等の健康状態 |
九、運転者に対しては、第十条第二項の規定に基づく指導の実施及び適性診断の受診の状況 |
十、運転者等台帳の作成前六月以内に撮影した単独、上三分身、無帽、正面、無背景の写真 |
これを、このようにするのである。
一、作成番号及び作成年月日 |
二、事業者の氏名又は名称 |
三、運転者等の氏名、生年月日及び住所 |
四、雇入れの年月日及び運転者等に選任された年月日 |
五、運転者に対しては、道路交通法に規定する運転免許に関する次の事項 |
イ 運転免許証の番号及び有効期限 |
ロ 運転免許の年月日及び種類 |
ハ 運転免許に条件が付されている場合は、当該条件 |
六、事故を引き起こした場合は、その概要 |
七、道路交通法第百八条の三十四の規定による通知を受けた場合は、その概要 |
八、運転者等の健康状態 |
九、運転者に対しては、第十条第二項の規定に基づく指導の実施及び適性診断の受診の状況 |
十、運転者等台帳の作成前六月以内に撮影した単独、上三分身、無帽、正面、無背景の写真 |
十一、運転者等のアルコールスクリーニングテストの実施結果 |
第十一項を増設し、AUDITの実施を義務とするのである。
現在、輸送安全規則上、運転者台帳は、このような様式である。
こうするのである。
アルコールスクリーニングテストについては、
”自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う 一般的な指導及び監督の実施マニュアル 《本編:一般的な指導及び監督指針の解説》 トラック事業者編”
P100に以下、記載されているので参照されたい。
○多量飲酒はアルコール依存症の原因となる可能性があります。普段から節度ある適度な飲酒を心掛けるよう指導するとともに、多量飲酒の傾向がある運転者に対しては、アルコール依存症の危険性について認識させましょう。必要に応じスクリーニングテストを実施し、アルコール依存症が疑われる運転者に対しては、早期の治療を指導しましょう。
■現時点で離脱症状がなくても、多量飲酒を続けていると耐性が上がり、アルコール依存症を 発症する危険性があります。 アルコール依存症の早期発見のツールとして、スクリーニングテストが使われることがあります。このテストは本人が回答して評価するように作成されており、点数配分などで本人の否認傾向も考慮されています。本人にアルコール依存症を気づかせるために、また、家族が本人の飲酒問題の程度を知るために使用するのは目的にかなっています。しかし、あくまでスクリーニングに使用するもので、診断基準ではないことに注意が必要です。わが国では現在、新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(新 KAST)、アルコール使用障害同定テスト(Alcohol Use Disorders Identification Test; AUDIT)などがよく使われています。
新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト:男性版(KAST-M) http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_alcohol_test1.html
新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト:女性版(KAST-F) http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_alcohol_test2.html
AUDITはWHOにより作成されたテストで、多くの国々でその妥当性が確認されています。
厚生労働省:e-ヘルスネット(AUDIT)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-021.html
提言2 指導監督告示1366号 12項目 の改正
現在、トラックドライバー向けの教育カリキュラムは、告示でこのように規定されている。いわゆる「指導監督12項目」である。
(1) | 事業用自動車を運転する場合の心構え |
(2) | 事業用自動車の運行の安全を確保するために遵守すべき基本的事項 |
(3) | 事業用自動車の構造上の特性 |
(4) | 貨物の正しい積載方法 |
(5) | 過積載の危険性 |
(6) | 危険物を運搬する場合に留意すべき事項 |
(7) | 適切な運行の経路及び当該経路における道路及び交通の状況 |
(8) | 危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法 |
(9) | 運転者の運転適性に応じた安全運転 |
(10) | 交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因並びにこれらへの対処方法 |
(11) | 健康管理の重要性 |
(12) | 安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法 |
これを、次のようにするのである。
(1) | 事業用自動車を運転する場合の心構え |
(2) | 飲酒と薬物について(スクリーニングテストを毎回行い、運転者台帳の点数も更新する) |
(3) | 事業用自動車の運行の安全を確保するために遵守すべき基本的事項 |
(4) | 事業用自動車の構造上の特性 |
(5) | 貨物の正しい積載方法 |
(6) | 過積載の危険性 |
(7) | 危険物を運搬する場合に留意すべき事項 |
(8) | 適切な運行の経路及び当該経路における道路及び交通の状況 |
(9) | 危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法 |
(10) | 運転者の運転適性に応じた安全運転 |
(11) | 交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因並びにこれらへの対処方法 |
(12) | 健康管理の重要性 |
(13) | 安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法 |
いままで(10)のひとつの要素であったが、独立カリキュラムとして扱い、かつ、これを機にAUDIT等のアルコールスクリーニングテストを毎年実施することとする、とするのである。
こういう実施計画とする。
職業による禁酒法律があるわけではないから。
別に、プロドライバーだから飲んではいけないということではない。実際、適正に、適切に飲酒をしているプロドライバーの方は多い。飲酒は、個人の嗜好でもある。
が。
なのだが。
だったら、正々堂々と、わたしはこういう飲み方です、と宣言すればいい。させればいい。
事業主や運行管理者としても、事業法で決まっているので、運輸局の監査時に求められる情報なので、記名式でAUDITを提出してください、とドライバーに対して堂々と言えるようになる効果もあろう。
AUDITの署名提出が、運転者台帳上で選任される、条件とするのである。
堂々と、自署記名式で、AUDITの結果を、運輸行政の正式フォーマットに記載する。
これを拒否するドライバーは、法的に存在しない、という制度設計とするのだ。
もちろん、虚偽の回答をする運転者もいるかもしれない。しかし、法的な書類の場でウソをつくのは それなりに勇気がいるハズ。
カンペキな抑止・防止策はない。で? だから、やらないって?
” そこまでお酒を飲みたいのなら、なぜトラックのドライバーをやっていたのか犯人に聞きたい。会社の方も、もうちょっとなんとかならなかったのか ”
報道で、親族の方のこの声をきいてから、ここ1ヶ月 考えてきました。
もうちょっとなんとかならなかったのか? 会社に対して、というより、トラック業界、国土交通省、貨物自動車運送事業法に対する 問いかけに 私には聞こえた。
なぜ、会社ですら気づかないかもしれない、業務中にお酒を飲むプロドライバーが、合法的に存在しうるのか? と。
上記2つの提案は、もっともコストがかからず、かつ 一定の効果が見込まれる改正と考える。
全事業者が出席するわけでもないセミナーや、読まれない冊子が配布されることに、本当は業界全体も効果が低いと感じてる。
必要なのは、持続的かつ体系的な教育、しかもデータをもとに。
さらにいえば、「すべてのトラックドライバーのAUDIT 平均」というデータを、やろうと思えば運輸局、国交省が全国的に持つこともできよう。
これから外国人ドライバ-も増えることが想定される。従い、国際的につかわれているAUDITを使うのが妥当であろう。
トラック全車両にアルコールインターロックを装着を、などという当面実現性の低い提言を今するつもりはない。
どうか、地味だがこの2つの提言を検討会で議論していただきたい。これ以上プロドライバ-の飲酒死亡事故を増やさないために。
もちろん、プラン2030策定時のパブリックコメントで正式に提出予定である。
今回の提言以外にも、出来る施策はほかにもあるのでいずれまとめて。