事業用自動車事故調査報告書

 

不適切な「LINEメッセージ点呼」以外に注目を。2024年問題が叫ばれる中、運行管理もドライバーの働き方も、何も変わらない・起きないのではないかと思わせる、「とある29台営業所の運行管理」の風景。

2023.10.10

先月9月22日付けで、山梨県で起きた大型トラックの追突事故(死亡2名)の事故調査報告書が公開されました。

 

LINEグループでメッセージ=点呼と称する

LINEによる点呼、とは最近よく聞きますが、今回事故で判明した点呼方法は動画や音声ではなく「メッセージや写真送信のみ」な点呼でした。アウトなやり方ですが、社内ではしっかり内部ルール化されていたようです。

○事故前々日の点呼方法

・事故前々日は、4時 10 分頃に福島県石川郡石川町所在の事業者(以下「当該事業者」という。)の営業所(以下「当該営業所」という。)に出社し、空パレット 250 枚を積置きしていた当該車両の日常点検を実施し、車両に備え置きされている携帯型アルコール検知器により呼気中のアルコール濃度の測定を行った。
・当該営業所に点呼担当者が不在となる早朝・深夜の点呼については、点呼担当者のLINEグループ1に、各運転者が携帯型アルコール検知器による呼気中のアルコール濃度の測定結果(数値が表示された状態を撮影した画像)、体調不良の有無、運行開始・終了についてのメッセージを送信することにより、点呼の代わりとしていた。
・この日も早朝で当該営業所に点呼担当者が不在であったため、携帯型アルコール検知器による呼気中のアルコール濃度の測定結果をスマートフォンで撮影し、補助者AのLINEグループにその画像と運行開始のメッセージを送信し、点呼の代わりとした。
・体調不良等があれば申告するように言われているが、特に体調不良はなかったので報告はしていない。
・メッセージを送信後、福島県相馬市のE社へ向け当該営業所を4時 40 分頃に出庫し、7時 15 分頃にE社に到着した。

○事故前日の点呼方法

・事故前日も、4時 10 分頃に当該営業所に出社し、当該車両の日常点検を実施し、車両に備え置きされている携帯型アルコール検知器による呼気中のアルコール濃度の測定を行った。
・携帯型アルコール検知器による呼気中のアルコール濃度の測定結果をスマートフォンで撮影し、補助者AのLINEグループにその画像と運行開始のメッセージを送信し、出庫の連絡とした。
・メッセージを送信後、4時 30 分頃に茨城県坂東市のC社へ向け出庫した。

○事故当日の点呼方法

・睡眠時間は5時間半くらいであったが、特に睡眠不足とは感じておらず、体調不良もなかった。普段の睡眠時間は6時間くらいであった。
・B社での荷下ろし時間は午前中の指定だったが、荷下ろし場所には7台しか入れず、7台以内に入れないと待たされるため早めに出発した。B社には4時 20 分頃到着し、先頭から6番目であった。
・荷下ろしの順番待ちに伴う休憩後、5時 20 分頃荷下ろし場所に入り、荷物をカゴ台車に入れて荷台から下ろす作業を行い、9時頃当該営業所に向けてB社を出発した。
・途中小山市と白河市のコンビニで休憩を取り 14 時 20 分頃帰庫し、15 時頃当該運行管理者から対面による終業点呼を受けた。
・終業点呼後、翌日配送予定の荷積みを行った。荷積みは、パレットに荷物を載せて、フォークリフトで荷台に積込む作業を、休憩を挟みながら断続的に行った。
・15 時 25 分頃、当該運行管理者から対面による始業点呼を受け、すぐに長野
県飯田市にあるA社に向けて出庫した。

明らかに「点呼者がいない時間は仕方が無い」、つまり、あきらめをシステム化している運行管理状態です。ですが、こちらの事業者は事故後これを改めています。人を増員して。

業務前の自動点呼が解禁になれば、この「点呼者がいない時間は仕方がない」は、事業者としては言い訳ができない状態になってくると思います。「点呼システムにお金はかけない」「人にもかけない」 完全にブラック宣言をしない限り。

直接の原因は、「漫然運転」

今回の直接の原因は、「考え事」とされています。事故態様でいえば「漫然運転」「不注意運転」(Distrated driving)です。居眠り運転やスマホそわそわ気になり運転ではなく、今回の事故はの直接の原因は、「考え事」なのです。

・圏央道に入る前に、約2ヵ月前に離婚した前妻から電話があり、今後の生活について、スマートフォンのハンズフリーで話をした。

具体的にはこのようでした。(本人申告)

一方で運行管理者もこの件は把握しており、気にしていた様子。

令和3年5~6月に離婚の話を聞き、「持家をどうしよう」といった内容の相談を受けた。元々燃費のよい走りをしていたが、6月頃から運転が荒れている印象だった。(by運行管理者)

プロドライバーのスキルとして、「運転中に、家庭の悩みを考えないこと」を口頭以外で運行管理者が指導したり、自分で精神をトレーニングするのはとても難しいと思います。

・五霞ICに入る前に前妻と電話で話し、今後の生活について悩んでいたため、考え事をしながら運転していたと思う。
・前を見て運転していたが、笹子トンネル辺りからどうやって運転していたのかはっきり覚えていない。
・停止している乗用車に気が付いたのは、直前だったと思う。急ブレーキをかけハンドルを左に思いっきり切った。
・眠気はなく、荷積み・荷下ろしで疲れていたとは思うが居眠りはしていない。

2024年以前も、以後も。

2024年問題、というフレーズを聞かない日はないですよね。当該報告書においては、さりげなく2024年問題と関連する部分には、深く立ち入っていないようです。事故調査報告が目的なので。しかしながら、2024年問題がいったい今後どうなるのか、どうにもならないのか、ほのかに感じられる実態があるように思いましたので、いくつか抜粋してみます。

 

 

運行管理者は、運転者の拘束時間、運転時間をどう把握し、コントロールしているのか?

この日も早朝で当該営業所に点呼担当者が不在であったため、

これの意味するところは、点呼者不在問題ではなく(もちろん安全面は問題ですが)、運行管理者はこのドライバーのこの時間の出勤、つまり、「拘束時間」の始まりの時刻を把握・許容しているのか? という点です。

早すぎる出発は、拘束時間のオーバー要因となりましょう。

こんな証言もあります。

出庫時間及び運行経路は、会社から配送先と配送時間を聞いて、自分で決めていた。

素朴な疑問として、本人は、拘束時間のことを認識しているのだろうか? (収入にも直結することもありましょう)

さらにこんな証言も。

終業点呼後、荷下ろしと翌日の荷積みを行い、その後帰宅する予定だったが、朝に弱いため自宅への往復の2時間がもったいないと考え、補助者Aに予定の変更を依頼し、翌日の配送先である群馬県太田市のB社近くの栃木県小山市内で休息を取る予定に変更してもらい、再び運行を開始することとした。

上記の風景からは、2024年問題の前提である

「2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用され、労働時間が短くなる」

という現場意識が感じないのは気のせいでしょうか? 
当該営業所は、29台 という ごく一般的な、平均的なトラック企業に感じます。上記は特殊な運行管理・労働時間管理の実態でしょうか? あるある でしょうか?

荷待ち・・・

・B社での荷下ろし時間は午前中の指定だったが、荷下ろし場所には7台しか入れず、7台以内に入れないと待たされるため早めに出発した。B社には4時 20 分頃到着し、先頭から6番目であった。

・運行計画では、圏央道に入る前に五霞町の道の駅で休息を取る予定だったが、配送先の飯田市に近いところまで行って休みたいと考え、運転を続けた。

独断? 自分で連続運転時間を 計算している? 

大型車駐車スペース問題・・・

中央自動車道に入り、初狩パーキングエリア(以下パーキングエリアを「PA」という。)で飲み物を買うつもりでいたが、初狩PA内の車路にトラックが止まっているのが見えたので、大型車の駐車スペースが混んでいると思い、高速を下りる前にどこか別のPAにおいて買おうと思い、寄らずに通過した。

深夜割引問題・・・

・会社からは高速道路を使う場合は、深夜割引を使うように言われていたので、深夜割引の適用を受けるためには、飯田ICを4時前に降りなければいけないと考えていた。

結果、このようなことでした。

デジタコが明らかに出来る、拘束時間、休息時間、連続運転時間

当該事故対象者には、デジタコが装着されていましたので、事故前後の運行状態や労務状況がはっきりわかっています(ドライブレコーダーは故障・・)。

 

 

「やむを得ない」は、2024年4月1日から、変わるだろうか?

・当該事業者においては、個人面談で運行記録計の記録を確認し、連続運転時間の超過や休息期間の不足があった場合には、個別に指導していたものの、改善基準告示違反が多数発生している状況に対して、違反となる運行があることを認識していたが、仕事だからやむを得ないと違反を容認していた。

 

当該事業所(29台、22人)は、トラック業界でいうと以下のように、小~中の規模、中央値に近い典型的なトラック事業者と言って良いかもしれません。ですので、上記のような実態はかなりの確率でいま現在も起きているのではないでしょうか。

 

行政サイド・大手事業者による「2024年問題」の情報発信量と、小~中規模事業者の情報発信量や情報発信意欲(動機)の「非対称性」を感じる今日この頃・・・。

今回の事故報告書では、いつもは気になる「点呼問題」なんかより、より深刻な問題を垣間見た思いでした。