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R1年大阪堺市の中型トラックの脇見・よそ見運転死亡事故 事故調査報告書の公表

2022.1.5

 

12月24日、事業用自動車 事故調査委員会から、最新の報告書が公表されました。

報道資料 事業用自動車事故調査委員会の調査報告書の公表について 

  

脇見・よそ見・考え事・・という本人の証言があります。いわゆる「漫然運転」でしょうか。
この事故は多重追突で死傷者が多く、詳細調査が行われました。

 

 

「同運転者は、事故地点のある道路を何度も通行しており、言わば通り慣れた道路で、今までの経験から交通渋滞が発生するところではないとの安易な思い込みから考え事などをしながら、左方の風景に気を取られ、前方不注意の状態となったものと考えられる」

本人の過失は明らかですが、本稿では、運行管理の実態にフォーカスしながら「漫然運転をしないスキル・させない体制」とは具体的に何であるかについて考えてみたいと思います。

 

2.1.1.1 当該運転者からの情報

 

当該運転者は事故後に死亡していること、また、事故当時、当該事業者で唯一選任されていた運行管理者は、病気治療中で運行管理業務が行えない状況であり、かつ、事故後死亡していることから、当該事業者を含むグループ3社の中核会社で、当該事業者と同一敷地内のA社の専務取締役であり、グループ3社の運行を統括して管理していた役員(以下「統括専務」という。)から聴き取りを行った。その結果及びデジタル式運行記録計の記録等から以下のとおりの情報が得られた。なお、統括専務は当該事業者における運行管理者または運行管理補助者に選任されていないことから点呼実施者としての法令要件を満たしていないが、統括専務の口述においては便宜上、点呼という言葉を使用する。

 

 

2.1.1.3 事故当日の運行状況

 

(3) 事故当日の運行状況
・事故当日、6時 51 分頃に当該運行管理者の立ち会いでアルコール検知器による酒気帯びの有無の確認を行い、当該運行管理者から対面による始業点呼を受けたが、注意事項や運行指示はなかった。その後すぐに出庫した。

・前日に宵積みした荷物を箕面市の配送先へ午前9時に届けるため、当該営業所の最寄りの助松ICから阪神高速4号湾岸線に入り、箕面市方面へ向かった。

・事故地点付近は、免許取得後、頻繁に通っており、言わば通り慣れた道路であった。また、事故当日、事故現場付近の渋滞情報は知らなかった。

・会社での人間関係のことで悩んでいたが、事故当時は疲労を感じていなかった。

・事故当時、眠気はなかった。

・阪神高速4号湾岸線に入ってから、亡くなった父のことや会社での人間関係など、考え事をしながら、事故現場付近で左方の風景に気を取られ、3秒程度脇見運転をしてしまった。

・顔を前に戻した途端、前方に停止した小型トラックに気が付き、急ブレーキをかけたが間に合わずぶつかってしまった。

 

 

2.1.2 運行状況の記録

 

・当該車両の運行記録計の記録について、事故日前1ヵ月の記録を確認したところ、事故前日及び事故当日以外の記録は保存されていなかった。

また、当該車両以外にも運行記録計の記録の保存の不備が散見された。

・事故当日の出庫時間を当該事業者は6時 52 分頃と口述しているのに対し、運行記録計に記録された出庫時間は7時 14 分頃であった。

・警察及び当該事業者からの情報による事故発生時間は、7時 17 分頃であるのに対して、運行記録計による事故発生付近の時間は7時 39分頃と記録されている。

・出庫時間並びに事故発生時間のどちらにも当該事業者及び警察情報と運行記録計の記録に 22 分の誤差が認められた。

・当該事業者は、運行記録計に記録された時間について「運行記録計搭載時から時間補正を行っていないので、正確かどうかわからない」と口述した。

・運行記録計の製造会社に当該車両に搭載されていた運行記録計に記録された時間の正確性について確認したところ、「この運行記録計は、簡易デジタコで、GPSと連動されておらず、時間補正をしていなければ、どんどん誤差が広がる」との回答があった。

 

 

2.1.2.2 ドライブレコーダーの記録状況

 

・当該車両は、自動車検査証によると初度登録年は平成 26 年であり、事故時の総走行距離は 400,578km であった。

・衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱警報装置、ふらつき注意喚起装置、居眠り運転防止装置などの安全運転支援装置は装備されていない。

2.4.2.1 本事故以前3年間の監査
 

当該事業者においては、過去3年間の監査及び行政処分などはなかった。

 

2.4.2.2 本事故を端緒とした監査

 

本事故を端緒として、当該営業所に対し、令和元年 10 月 23 日に監査が実施され、次の行政処分が行われている。
(1) 行政処分の内容
令和2年4月 13 日、輸送施設の使用停止処分(40 日車)
(2) 違反行為の概要
違反項目は、次の9項目である。

・乗務時間等告示の遵守違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則(以下「安全規則」という。)第3条第4項)
・点呼の実施義務違反(安全規則第7条第1項から第3項)
・乗務等の記録事項義務違反(安全規則第8条)
・運行記録計による記録義務違反(安全規則第9条)
・運転者台帳の記載事項義務違反(安全規則第9条の5第1項)
・運転者に対する指導監督違反(安全規則第 10 条第1項)
・運転者に対する指導監督の記録事項義務違反(安全規則第 10 条第1項)
・定期点検整備の実施違反(3ヶ月点検)(安全規則第 13 条、道路運送車両法第 48 条)
・運行管理者の講習受講義務違反(安全規則第 23 条第1項)

 

2.4.3.2 運転特性

 

・当該運転者は、平成 29 年8月に雇用されてから適性診断は受診していなかった。
・当該運転者は、前事業者において入社後に適性診断(初任)(以下「初任診断」という。)を受診していた。

・当該運行管理者は、初任診断は新たに雇入れた運転者に対してではなく、初めて運転者に選任された者に実施するものであると勘違いしていた。また、当該運転者が前事業者において、初任診断を受診しているものと思い込み、確認することもしていなかった。

 

 

2.4.4.1 運行管理体制などに関する情報

 

・当該営業所では、運行管理者1名、運行管理補助者1名が選任されていた。

・当該運行管理者は、当該事業者の代表取締役であり、平成 22 年9月に選任されていた。

なお、選任後、受講することが義務づけられている、運行管理を行うために必要な知識を習得するための国土交通大臣が認定する一般講習については、平成 24 年 11 月8日に受講修了しているが、それ以降の受講はなかった。

 

2.4.4.2 当該運転者の乗務管理

 

当該営業所に当該車両の運行記録計の事故日前1ヵ月の記録については、事故前日と事故当日のみ保存され、それ以外は保存されていなかったことから、運転時間などについても事故前日及び事故当日以外は確認できなかった。

当該営業所の点呼記録簿によると、事故日前1ヵ月の当該運転者の勤務状況については、表7及び図3のとおりであり、平成元年2月に労働省(当時)が策定した「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下「改善基準告示」という。)に違反したものはなかった。なお、当該事業者は、時間外労働に関する労使間協定を締結し、労働基準監督署へ届出している。

 

2.4.4.3 点呼及び運行指示

 

(1) 当該運行管理者の口述
・始業点呼は、対面による点呼を実施し、アルコール検知器を使用した酒気帯びの有無の確認、健康状態、睡眠の状態、日常点検の状況の確認はしていたが、安全な運行を確保するための注意及び指示はしていなかった。これまで、当該営業所の運転者が大きな事故を起こしていなかったので、おごりや過信があった。


・その他には、急な体調変化に気をつけることを伝達していた。


・終業点呼は、対面による点呼を実施し、アルコール検知器を使用した酒気帯びの有無の確認、車両の状況、その日の反省などについて報告を受けるとともに、運転作業日報を確認している。


・当該運行管理者が体調不良などにより不在の場合は、対面による点呼は実施せずに電話での点呼で済ませたり、運行管理者の資格を有しない事務員に対面による点呼を実施させたりしたこともあった。


・当該運行管理者の勤務時間については、決まっておらず、運行状況に合わせて勤務するようにしていた。


・運行管理補助者については、普段、関空に常駐させており、A社から運送依頼があった際に関空で待機している運転者に運行の指示を行っているために点呼業務は行っていなかった。


・事故当日の当該運転者に対する始業点呼は、当該運行管理者が対面で実施し、疲労、睡眠不足などには問題はなかった。なお、その際、当該運転者に対して安全な運行を確保するための注意及び指示はしていなかった。


(2) 点呼記録簿の記録状況
・注意・指示事項伝達など及び特記事項の欄には、記載が全くされていなかった。


・始業点呼については、午前3時から午前6時までの間に行われた点呼の全てが電話点呼により実施した旨記録されていた。


・当該運行管理者は、事務員に点呼を実施させたこともあったと口述しているにもかかわらず、点呼執行者名の欄の全てに当該運行管理者の印鑑が押印されていた。


・当該運行管理者及び当該運転者から事故前日に中間点呼を実施した旨の口述がないにもかかわらず、中間点呼を実施した記録がされていた。

 

2.4.4.4 指導及び監督の実施状況

 

(1) 当該運行管理者の口述
・当該営業所では、毎月第2土曜日に行うミーティングの時間を利用して運転者全員に対し指導教育を行っているが、平成 13 年8月に国土交通省が策定した「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」(以下「指導監督指針」という。)に基づいた指導教育は行っておらず、指導教育に係る年間計画も策定していなかった。
・毎回ほとんどの運転者が参加しているが、長距離運送などで稀に1、2名の
欠席者が生じることがあり、その際は、後日同じ内容を欠席者に伝えていた。

(2) 指導監督の記録
・運転者に対する指導教育については、毎月第2土曜日に行うミーティングの時間を利用して運転者全員に対し行っている旨、当該運行管理者の口述があるものの、これら指導教育を実施した記録は確認することができなかった。
・指導教育の際、ニュースで大きく取り上げられた事故などを例に挙げ注意喚起をしていた旨の当該運行管理者の口述はあるものの、指導教育の際に使用された教材などの保存は確認できなかった。

 

2.4.4.5 適性診断の活用

 

(1) 当該営業所の適性診断の実施状況
・当該運行管理者は、適性診断に係る受診計画は作成しておらず、適性診断の受診対象者を十分に把握していなかったものの、高齢運転者1名に対する適齢診断は受診させていた。
・適齢診断を含め適性診断の結果を活用した指導などは行っていなかった。

(2) 当該運転者の適性診断の実施状況
当該運行管理者は、当該運転者に対し当該事業者に雇入れ以降適性診断は受診させておらず、従って運転適性の把握や指導はしていなかった。

 

 

 

漫然運転をしないスキルとは?

 

図5に示したように、公益財団法人交通事故総合分析センター「事業用自動車の交通事故統計(令和元年版)」の事業用トラックの法令違反別の事故件数の割合によると、事故総数 15,606 件中、脇見運転が 2,815 件、漫然運転が 1,515 件であり、この2つによる事故が全体の約 28%を占めている。脇見や漫然運転により注意力が欠如した状態で運転することが、事故に直結する重大な危険性があることを十分理解して、運行の安全を確保することを徹底することが重要である。

最後、再発防止として、

 

事業者は、国土交通省による補助制度を積極的に活用するなどして、車両に以下の安全運転支援装置を導入することにより、運転者が事故防止のための対応が適切に行えるようにすることが望まれる。

・運転者の目の動きや顔の周辺の状態などをモニターし、運転中の前方の注意力の低下を感知して警告する装置

・運転者の生体信号を捉え疲労度合いを警告する装置

・衝突被害軽減ブレーキ

 

今回の事故状況からすると、被害者は、安全装備で救えた可能性があります。

再発防止策としては、法令遵守のテッテ言っていません言っていません。言いようがないのかもしれません。

単純に、上記安全装備の前に、「ドラレコすらナシ」、「運行記録計不備」であったという・・。

 

最後に、素朴な疑問を3つ。


1.事業用自動車事故調査委員会は、なぜ該当事業者の「Gマーク取得事業者である・ない」に言及しないのだろうか?(設立年度や車両数・運行管理者数・デジタコ・ドラレコ等の設備まで言及しているのに・・)

↑ なぜここに、Gマーク取得有無がないのでしょう?


2.事業用自動車事故調査委員会は、なぜ、再発防止に、Gマーク取得推奨を入れないのだろうか?

事故後の特別監査で認定された法令違反状況は、Gマーク取得事業者であればあり得ないはずの内容と量である。
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000241.html

 

3.事故後の特別監査で認定された法令違反に至るまでに、適正化実施機関の巡回指導は機能していなかったのだろうか?
https://www.truck.or.jp/publics/index/25/