日本の自動車運送業界(バス、タクシー、トラック)では、「デジタルタコグラフ」は、いまや運転日報ツールとして、ときには動態管理ツールとして、普及しています。しかし、道路運送法や貨物自動車運送事業法で「事業用車両はすべてデジタコが義務づけられている」わけではありません。
時は、「デジタル庁」。話題に事欠かないようですが、はたして、日本の道路運送事業では、行政側? 民間企業側? どれくらいデジタル化が加速するでしょうか? これを機に、運行管理のデジタル化のある意味象徴かもしれない「デジタコの義務」を、今度こそ、実現させることができるでしょうか?
この度、お隣台湾での運行記録計やデジタコの現在と改正の方向性について調査いたしましたので、日本の義務化状況と併せて、レポート致します。
1.日本の「デジタコ」の装着は義務ではない(トラック編)
デジタコの義務化の是非、といえば、2014年のこの件に遡らざるを得ません。
運行記録計の装着義務付け対象の拡大についてhttps://www.mlit.go.jp/common/001062399.pdf
となったわけですが、この結論にいたる経緯(デジタルタコグラフの有効性を認めながらも、アナログ・デジタル両方可とした)は、検討会資料に詳しく記載されています。
1.平成26年 3月 検討会最終回の議事録
2.平成26年 3月 検討会最終回の資料(自動車局見解)
3.平成26年 3月 検討会最終回の資料(運行記録計の普及・義務化のロードマップ)
2.日本の「デジタコ」の装着は、一部義務(バス編)
バス事業のうち、高速乗合バスと、貸切バスについては、「交代運転者の配置基準」という規則があり、一部、デジタコが義務化されています。
高速乗合バス及び貸切バスの交替運転者の配置基準について(旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について
出典:厚生労働省高速乗合バス及び貸切バスの交替運転者の配置基準についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kousokubus.html
ちなみに、貸切バス業界については、軽井沢スキーツアーバスという大きな事故があり、結果的に「全車装着」を義務化したのは「ドライブレコーダー」のほうで、同じデジタル機器でも、デジタコは上記の配置基準以外は、義務ではなく、推奨(アナログタコグラフでも良い)という状況です。
以上をまとめますと、
・日本のトラックは、デジタコ装着は義務ではない(アナタコ可)
・日本のバスは、デジタコ装着は、一部義務(アナタコ可)
・日本のタクシーは、デジタコ装着は、義務ではない(アナタコ可)
ということになります。
アナログタコグラフ、デジタルタコグラフの保安基準については以下を参照ください。
https://www.mlit.go.jp/common/000190505.pdf
(今回の記事では、詳細技術仕様には触れません)
2.台湾の車検制度と、デジタル式運行記録計
台湾の道路運送車両関連法について調べましたところ、「車両の出荷前」、「車両の販売後と使用過程」での管轄機関が異なることが分かりました。
「車両の出荷前」においては、車両の安全性確認のため、『公路法』第63条、『車両型式安全審験管理規則』、『車両安全検測基準』等の法令に基づいて、出荷前の新車に対して車両型式安全審査を行うようになっています。
これは交通部に属する「財団法人車両安全審験中心(財団法人車両安全審査センター)」という機関が管轄しています。
上記の法令・規則のうち、運行記録計の搭載についての規定があるのは『車両安全検測基準』で、デジタル運行記録計についての規定が記載されています。
「車両の販売後と使用過程」における安全管理(即ち、ナンバープレート申請時とその後の車検)は、交通部の下位機関である「公路総局」が管轄しており、実際の業務は各市・県の監理所(道路監理機関、運転免許センター)が行っています。
3.台湾の運行記録計(アナタコ)
『車両安全検測基準』によれば運行記録計は以下と規定されていまる。
(関連部分の日本語訳)
16.運行記録計
1. 運行記録計とは、自動車の瞬間走行速度、及び走行距離ならびに走行時間を連続的に記録する機能を有する装置を指す。
2. 実施日と適用範囲:
2.1 連結総重量及び総重量が20トン以上のM類(※)ならびにN類(※)の車両に搭載される運行記録計、及び中華民国90年(2001年)1月1日以降の8トン以上20トン未満のM類ならびにN類の車両に搭載される運行記録計は、本項の規定を満たすものとする。
2.2中華民国96年(2007年)7月1日より、新型式の8トン以下の大型バスに搭載される運行記録計、及び中華民国97年(2008年)1月1日より、各型式の8トン以下の大型バスに搭載される運行記録計は、本項の規定を満たすものとする。
※:M2類、M3類、N2類、N3類の車両の定義については文末の車種コードの抜粋日本語訳をご参照ください。
4.台湾のデジタル運行記録計
『車両安全検測基準』によれば運行記録計は以下と規定されていまる。
(関連部分の日本語訳>
1.1 新型式のM2類、M3類、N2類及びN3類(※)の車両は、中華民国110年(2021年)1月1日より、各型式のM2類、M3類、N2類及びN3類の車両は中華民国112年(2023年)より、デジタル運行記録計を搭載するものとし、本項の規定を満たすものとする。
(2以降の、運行記録計の機能、規格、検査基準等は割愛。)
※:M2類、M3類、N2類、N3類の車両の定義については文末の車種コードの抜粋日本語訳をご参照ください。
5. 運行記録に関するその他関連規則
『道路交通安全規則』から関連事項をいくつか抜粋。
https://motclaw.motc.gov.tw/webMotcLaw2018/Law/ArticleContent?type=1&LawID=E0055118
(日本語訳)
第39条
自動車のナンバープレート申請に係る検査の項目及び基準は、下記の規定に従う。
24.連結総重量及び総重量が20トン以上で、新規にナンバープレートを登記し、検査を受け、交付を受ける自動車は、自動車の瞬間走行速度及び走行時間を連続して記録する機能を有する運行記録計(以下、運行記録計と略称する)を搭載するものとする。
中華民国90年(2001年)1月1日より新規にナンバープレートを登記し、検査を受け、交付を受ける8トン以上20トン未満の自動車、中華民国96年(2007年)7月1日より車両型式安全審査を受け、中華民国97年(2008年)7月1日より新規にナンバープレートを登記し、検査を受け、交付を受ける8トン以下の業務用大型バス(※)も同様とする。また、運行記録計が審査で合格となった証明を提出するものとする。(1~23項、25~32項は割愛)
※:業務用大型バスは、自動車輸送業において乗客の輸送を主とする車両で、座席が10席以上、または総重量が5000キログラムを超える車両であり、監督官庁が定める路線でのみ運行する一般の業務用大型バス、各市区の路線バス、長距離バス等が含まれる。
第39条の1
自動車の定期検査の項目及び基準は、下記の規定に従う。
18.連結総重量及び総重量が20トン以上で新規にナンバープレートを登記し、検査を受け、交付を受ける自動車は、中華民国88年(1999年)9月23日の本規則の修正公布施行日より、運行記録計を搭載するものとする。8トン以上20トン未満で新規にナンバープレートを登記し、検査を受け、交付を受ける自動車は、中華民国90年(2001年)1月1日より同様とする。中華民国96年(2007年)2月1日より、業務用大型バスは運行記録計を搭載するものとする。また、運行記録計が定期検査で合格となった証明を提出するものとする。
第89条
走行前に注意すべき事項は、下記の規定に従う。
1.ハンドル、ブレーキ、タイヤ、ライト、ワイパー、クラクション、バックミラー、及び規定に従って搭載すべき運行記録計、荷重計、ならびに右左折・バック警告音装置等が、確実に有効に作動することを詳細に検査しなければならない。
(2~7項は割愛)
上記第1項で運行記録計を搭載すべき自動車が、規定に従って搭載していない、または検査により正確に作動しないことが発見された、または記録カードを使用していない、または記録カードを定期的に交換していない場合は、走行してはならない。前記の記録カードは、事後の審査に備え、1年間適切に保存するものとする。
『道路交通管理処罰条例』第18条の1
https://motclaw.motc.gov.tw/webMotcLaw2018/Law/ArticleContent?type=1&LawID=E0130037
規定に従って自動車に運行記録計を搭載していない場合は、自動車の所有者に対して新台湾ドル12,000元以上24,000元以下の罰金を科す。
自動車に搭載された運行記録計が正常に作動せず、走行前にこれを改善せずに継続して走行した場合は、自動車の所有者に対し、新台湾ドル9,000元以上18,000元以下の罰金を科す。
規定に従って運行記録カードを保存していない、または運行記録計を規定に従って使用していない、もしくは不正に使用したために、データを正確に記録できなかった場合は、自動車の所有者に対して新台湾ドル9,000元以上12,000元以下の罰金を科す。
前記3項に違反した場合は、臨時検査を受けるよう命じるものとする。
車種コードの説明
『車両安全検測基準』で定められている車種コードは、以下の通りです。
(日本語訳)
2. M類車両:
2.1 M1とは、主に乗客を輸送する四輪以上の車両で、且つその座席数(運転席を含む)が9席を超えない車両を指す。
2.2 M2とは、主に乗客を輸送する四輪以上の車両で、且つその座席数(運転席を含む)が9席を超えるが、車両総重量が5トンを超えない車両を指す。
2.3 M3とは、主に乗客を輸送する四輪以上の車両で、且つその座席数(運転席を含む)が9席を超え、且つ車両総重量が5トンを超える車両を指す。
3. N類車両:
3.1 N1とは、主に貨物を積載する四輪以上の車両で、且つその総重量が3.5トンを超えない車両を指す。
3.2 N2とは、主に貨物を積載する四輪以上の車両で、且つその総重量が3.5トンを超えるが、12トンを超えない車両を指す。
3.3 N3とは、主に貨物を積載する四輪以上の車両で、且つその総重量が12トンを超える車両を指す。
5.まとめ
調査の結果をまとめますと、以下となります。
1.新型式のバス・トラック(車種コードはM2, M3, N2, N3)は2021年より、新車販売時デジタルタコグラフの搭載が義務づけられる。
2021年デジタコ搭載義務 | バス | 席数9席以上 | 総重量5トン未満 |
2021年デジタコ搭載義務 | バス | 席数9席以上 | 総重量5トン超 |
2021年デジタコ搭載義務 | トラック | 総重量3.5トン超12トンを超えない |
2021年デジタコ搭載義務 | トラック | 総重量が12トンを超える車両 |
3.2023年以降、従来の型式のバス・トラックの新車販売時は、デジタコの搭載が義務付けられることになっている。
2023年デジタコ搭載義務 | バス | 従来型式の新車バス |
2023年デジタコ搭載義務 | トラック | 従来型式の新車トラック |
みなさん如何でしたでしょうか。
台湾では、3.5トン以上の新車トラックを2023以降に事業に共有する場合、デジタコ搭載が必須となります。
<ヘッドラインおよび記事中の写真は本文と直接関係ありません>
-
2024.12.2
-
2024.11.29
-
2024.11.28
-
2024.11.27