12月24日、事業用自動車 事故調査委員会から、最新の報告書が公表されました。
報道資料 事業用自動車事故調査委員会の調査報告書の公表について
記憶に新しい、踏切内のトラックに電車が追突した事故(令和1年9月)です。
事故のその瞬間へ至る、最後の一分一秒まで、運転者(死亡)がどういうハンドル操作をしていたのか・・緊張感ある証言も含まれています。
本記事では、運転者の踏切上での判断の是非については取り上げません。
当該事故の事業者の運行管理体制にフォーカスしてみます。
以下、一部抜粋です。
2.1.1 当該事業者関係者等からの情報
当該運転者は事故後に死亡していること、また、事故当時、当該事業者で唯一選任されていた運行管理者は、病気治療中で運行管理業務が行えない状況であり、かつ、事故後死亡していることから、当該事業者を含むグループ3社の中核会社で、当該事業者と同一敷地内のA社の専務取締役であり、グループ3社の運行を統括して管理していた役員(以下「統括専務」という。)から聴き取りを行った。その結果及びデジタル式運行記録計の記録等から以下のとおりの情報が得られた。なお、統括専務は当該事業者における運行管理者または運行管理補助者に選任されていないことから点呼実施者としての法令要件を満たしていないが、統括専務の口述においては便宜上、点呼という言葉を使用する。
2.1.1.3 事故当日の運行状況
・当該運転者は、4時 00 分頃、当該営業所においてアルコール検知器による酒気帯びの有無の確認を行い、出力された記録紙を点呼場に備え付けられている台紙に貼付し、4時 09 分頃に点呼を受けず出庫している。
・早朝出庫の際は、統括専務が立ち会えないことから、慣行として当該事業者においては何かあったときだけ電話による連絡を義務づけている。この時は何もなかったようで、出庫に際して当該運転者から連絡はなかった。
・運行経路は、同僚運転者による添乗指導の際に伝えていた。
・出庫してから千鳥町入口までは一般道を使用し、6時 32 分頃千葉県浦安市の首都高速湾岸線(以下「湾岸線」という。)に入り、首都高速神奈川 1 号横羽線(以下「横羽線」という。)東神奈川出口を降りて7時 40 分頃荷積み場所の倉庫に到着している。
・荷積み場所での受付は通常9時に開始されるが、倉庫側の都合で積込み時間が変動することから、荷下ろし先にはその旨説明し、具体的な到着時間を決めず、どのような時間となっても対応してもらえるように取り決めている。
・荷積みは、倉庫の担当者がフォークリフトで行い、当該運転者がこれを手伝うことはない。荷積みが 11 時から始まり 11 時 20 分に終了しており、その後目的地に向けて出発している。
・荷積み後の運行経路は、国道 15 号へ左折し、その先の東神奈川2丁目の交差点(以下「交差点1」という。)でUターンし、横羽線に入るものと考えていた。
・事故発生は、荷積み場所からの連絡で知り、クラウド3に上がっていた当該車両の当日の運行記録から、積み込み先の出発時間等を確認した。その後、理由はわからないが、この日のデータは取得できなくなった。
・このため、この日の当該車両の運行経路等について情報は収集できず、事故発生踏切が京急本線であったことも、ニュースで知った。
2.9.1 当該車両の概要
・自動車検査証によると初度登録年は平成 14 年であり、平成 30 年における継続検査の際の総走行距離は203,100km であった。なお、統括専務によると、当該車両はメータ交換を行っていたため、事故時までの総走行距離は、1,313,204km であった。
・衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱警報装置、ふらつき注意喚起装置、居眠り運転等の場合に運転者に警報を発する装置等の安全支援装置は装備されていない。・ドライブレコーダー、カーナビゲーション装置及び後方視野確認支援装置(以下「バックアイカメラ」という。)は装着されていない。
2.11.2.1 当該事業者の過去3年間の状況
当該事業者においては、過去3年間の監査及び行政処分等はなかった。
2.11.2.2 本事故を端緒とした監査等
当該営業所に対し、本事故を端緒として令和元年9月5日、同年9月6日、同年9月 11 日、同年 12 月 16 日に監査が実施され、次の行政処分が行われている。
(1) 行政処分の年月日 令和2年 10 月8日
(2) 行政処分の内容 事業の全部停止処分 60 日間及び輸送施設の使用停止処分 90 日車
(3) 違反行為の概要 次の 12 件の違反が認められた。・乗務時間等告示の遵守違反(貨物自動車運送事業輸送安全規則(以下「安全規則」という。)第3条第4項)
・健康状態の把握義務違反(安全規則第3条第6項)
・点呼の実施義務違反等(安全規則第7条)
・乗務等の記録事項義務違反(安全規則第8条第1項)
・運転者に対する指導監督違反等(安全規則第 10 条第1項)
・高齢運転者に対する指導監督違反(安全規則第 10 条第2項)
・高齢運転者に対する適性診断受診義務違反(安全規則第 10 条第2項)
・整備管理者の選任違反(安全規則第 13 条、道路運送車両法第 50 条第1項)
・運行管理者の選任違反(貨物自動車運送事業法第 18 条第1項)
・事業計画の変更認可違反(貨物自動車運送事業法第9条第1項)
・事業計画事前届出違反(貨物自動車運送事業法第9条第3項)
・自動車に関する表示義務違反(道路運送法第 95 条)
2.11.4 運行管理体制
2.1.1 で記載したとおり、事故当時、当該事業者で唯一選任されていた代表取締役である運行管理者は、病気治療中で運行管理業務が行えない状況であった。病気前においては、自身が運行管理を行っていたが、治療を開始した後は、統括専務が、以下の業務を実施している。なお、当該運行管理者が運行管理業務を行っていた時期においても、経路の指示や把握等は行われていなかった。
2.11.5 運行管理
統括専務が、グループ3社すべての運行管理を行っている。当該事業者における運送業務は、顧客対応が主たるものとなっており、顧客からの指示によりその日の配送ルートが決まることから、日々の細かい指示は行っていない。突発的に遅延が生じた場合等には勤務時間等を確認し、翌日以降の乗務を配慮している。当該運転者には、顧客対応の運送のほか、突発的または運送受注頻度が少ない輸送も対応させている。なお、乗務内容については、デジタル運行記録計と連動して作動するプログラムにより出力される運行記録により、ハンドル時間、走行距離、出庫・帰庫時間等を確認している。
2.11.6 配車指示
受注、配車指示は統括専務がグループ3社について総合的に行っている。顧客対応の運行については、配送先が決まっていることから特段経路の指示を行っていない。受注頻度が少ない運送や突発的な輸送は、統括専務が過去の実績や運行経路を踏まえて経験のある運転者を選び、前日夕方に配車を行っている。配車指示は、発注者からFAXされた注文票をそのまま運転者に手渡し、翌日の配車の指示としている。運送終了後、当該注文票は運転者が破棄し、運転者は荷下ろし後、受取伝票にサインをもらってこれを会社に提出している。この受取伝票には、相手方氏名や受取サイン等が記録されているのみで、運行に係る情報は記載されていない。
2.12.1.3 当該運転者の日常の状況
採用されてから、約 11 ヵ月間の当該運転者の印象等は、以下のとおりであった。
・採用時から、まじめでおとなしく仕事への取り組みにも問題はなかった。
・陸送の仕事を長年やっていたことから、運転操作について特に気になることもなく、同僚運転者等からも運転技術について心配する声はなかった。
・配車指示をした際、所有するスマートフォンのカーナビゲーションアプリケーション(以下「ナビアプリ」という。)を使用して経路の確認を行っていた。
・当該ナビアプリについては、「このナビがあれば、どこでも行ける」旨話しており、頼りにしているようだった。
・当該運転者の話によれば、ナビアプリについては、担当していた当該車両の外寸等をあらかじめ入力し、高さ規制等を回避した経路案内がされるよう設定しているとのことだった。
・同僚運転者から、当該運転者は狭いが近道となるコースを薦められてもなるべく幹線道路を通る旨話していたと聞いており、通常狭い道は使用していないようだった。
・同僚運転者は、自身が使用している大型車専用ナビアプリと当該運転者のナビアプリは同じものだったと話している。
2.13.2 点呼
選任された運行管理者による点呼は実施できないことから、統括専務が代行して出・帰庫の確認を行っていた。なお、統括専務の勤務時間である6時から 20 時以外の時間帯に、出・帰庫する車両は、この確認自体行っていない。
統括専務が不在の時間帯の出庫については、運転者が出社後点呼場に設置されているアルコール検知器による酒気帯びの有無の確認を自身で行い、出力された記録紙をその場に設置されている台紙に貼付し、車両の鍵を保管庫から取り出し出庫している。
この際、特段の事情がなければ統括専務への電話連絡もしていない。帰庫についても、同様にアルコール検知器による酒気帯びの有無の確認を自身で行い、出力された記録紙をその場に設置されている台紙に貼付し、車両の鍵を保管庫に戻して退社している。この際も、特段の事情がなければ統括専務への電話連絡はしていない。
2.13.2.2 当該運転者の事故当日の始業点呼実施状況
・当該運転者は、事故当日4時頃に出社し、アルコール検知器による酒気帯びの有無の確認を行い、その記録を台紙に貼付している。
・出庫時間が早朝で統括専務が不在だったことから、統括専務の確認を受けることなく、点呼場内の保管庫から当該車両の鍵を取り出し、4時 09 分に出庫している。
・統括専務が不在の時間帯に出庫する際、体調や車両に問題があれば統括専務に電話を入れるよう指示しているが、この日は連絡がなかった。
・荷積み場所到着時及び同地出発時の連絡も日ごろから求めておらず、この日も連絡はなかった。
2.13.2.3 点呼記録簿
統括専務がグループ3社の点呼を実施し補助者が記録を行っている。点呼実施者欄は、空白のままとなっていた。これらの点呼記録は、統括専務の出・帰庫確認が行えなかった運行も含めて、日報に記載されている行先、担当車両、出庫・帰庫時間等を参考にして帰庫後、記載している。
なお、点呼実施時刻については、日報の出・帰庫時刻を参考に、始業点呼は5分~10 分程度前、終業点呼は5分~10 分程度後の時間を記載していた。
2.13.3.3 初任運転者に対する教育
運転経験の豊富な者を採用することから、指導監督指針で定める初任運転者に対する特別な指導(以下「初任教育」という。)は行っていない。
2.13.3.4 当該運転者に対する教育実施状況
当該運転者は、前職において大型車等の陸送を長年行っているものの、当該陸送会社が貨物自動車運送事業者ではないことから、初任教育が必要であったが、実施していなかった。
2.13.4 適性診断の実施状況
統括専務からの口述及び関係資料から、以下の情報が得られた。
2.13.4.1 実施計画
適性診断(一般診断)の受診に係る実施計画は、立てていない。毎年グループ3社の運転者から数名を任意でピックアップし、受診させている。荷主から、細かい場内事故の発生に伴い行かせるよう言われて受診させた者もい
る。
診断結果に基づく個別の指導は行っていない。なお、当該貨物自動車運送事業者において初めて事業用自動車に乗務する前に受診させなければならない適性診断(初任診断)については、受診させた運転者はいない。
2.13.4.2 当該運転者の受診状況
当該運転者は、適性診断(初任診断)受診の義務が生じていたものの受診させて
いない。
最後に、素朴な疑問を3つ。
1.事業用自動車事故調査委員会は、なぜ該当事業者の「Gマーク取得事業者である・ない」に言及しないのだろうか?(設立年度や車両数・運行管理者数・デジタコ・ドラレコ等の設備まで言及しているのに・・)
2.事業用自動車事故調査委員会は、なぜ、再発防止に、Gマーク取得推奨を入れないのだろうか?
事故後の特別監査で認定された法令違反状況は、Gマーク取得事業者であればあり得ないはずの内容と量である。
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000241.html
3.事故後の特別監査で認定された法令違反に至るまでに、適正化実施機関の巡回指導は機能していなかったのだろうか?
https://www.cta.or.jp/tekiseika/katsuyo/
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