事業用自動車事故調査報告書

 

”止まらない、やばい。皆さん落ち着いて。止まって” 緊迫の12分。あわや軽井沢スキーツアーバス事故と同じ大事故。ふじあざみライン大型バス事故調査報告書から何を読み取るべきか?

2024.12.12

事業用自動車事故調査委員会の調査報告書がまた一件追加されました。

https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha02_hh_000675.html

緊迫の、12分はなぜ起きたか?

最後の瞬間にいたるまでの12分。

 

でも、前段があります。

 

当該営業所では運転者全員を集めて行うような教育はなく、パソコンでのeラーニングを受けていた。月に1講座程度で約20 分から30 分の内容だった。毎月受けずに溜まっていくと、事務員さんに受けるように言われるが、それによる乗務制限等はなかった。
・eラーニングは合格点が80 点か90 点だったと思う。ダメだったらもう一回やるだけで、指導はなかった。
・入社時の教育では、座学でバスの構造等に関する話の後、実技として本社の教育担当者1名と12m貸切バスで秩父の方へ行き、戻ってからドライブレコーダーの映像と初任診断の結果を使って指導を受けた。
・特定バスを初めて運転するときは、道を覚える必要があるため先輩の運転者が同乗して運転したが、貸切バスを初めて運転するときは先輩の同乗はなかった。
・初めての山岳道路運行の時は、先輩運転者との事前のルート確認で山岳道路はきついとの説明はあったが「あとはついて来て」と言うだけで助言等はなかった。
・初めて行く場所について、先輩からは「いろんな運転者に聞いてやっていきなさい」と言われたけど、聞けば教えてくれるが、みんな忙しくてその人が毎日居るわけではないのでなかなか聞けない。泊りの運行では隣にいる他社の運転者の方にコーヒー1本持って行って聞いたこともあり、そうやってや
っていくしかないのかな
と思っていた。

・ふじあざみラインは過去に10 回ほど走行しているが、坂がきつく行きたい場所ではない。狭く、坂がきつく、見通しも悪く、この辺では一番怖い(同僚運転者)

 

・フェード現象に対する感覚は人によって異なり、ブレーキは普通に踏んで止まるものだと思っている人もいる。気を付けろと言っても、経験がないと理解できないと思う(同僚運転者)

・前日の昼頃、スマートフォンにLINE2のメッセージで運行指示書の写しが送られており、ふじあざみラインに行くことは分かっていたが、初めての行先であり不安はあった。(本人)

・本事故の数日前に当該事業者の別の営業所で、同じ旅行会社のツアーでふじあざみラインを含む経路を走行しており、運行指示書に「運行に際して注意を要する箇所の位置・・・ふじあざみライン往路」、「急坂&カーブが続くため、走行時は2速もしくはローギヤの低速ギヤにて」「エンジン回転数オーバー注意」と記載されていた。(運行管理者)

 

・普段は2速に入れて発進するが、出発地点が緩い下り坂だったので、3速で発進し最初のカーブですぐに4速にシフトアップしそのまま4速で走行した。(本人)

・下り勾配で車速がどんどん上がり、連続する急カーブを曲がるためのハンドルを操作するのに精一杯となり、シフトレバーに手を置けない状態となった。
・車速が少し落ち3速にシフトダウンしたところで、左に寄せて壁に当てることも考えたが、当てる所もなく、林の中に入ることも考えたが、その先がどうなっているのか分からないためできなかった。(本人)

(上記赤太文文字は本誌が強調加工している)

乗用車ですが、私は経験あります。坂道で。函南から熱海に降りる下りの道です。今でも覚えています。あの恐怖。本当にブレーキがきかなくなるんですよね・・・。ハンドブレーキでぎりぎり減速できましたが。怖かったです。これは 本当に経験しないと分からないと思う。

 

初任運転者教育後も指導監督指針に基づき年間計画を作成して指導を実施していたものの、DVDやパソコンを使用したeラーニングによるもので、ドライブレコーダーの映像記録を利用した指導も行われておらず、当該運転者の運転特性を理解した指導ができていなかった。貸切バスの運転経験の少ない当該運転者が、担当した運行に不安を感じた場合も、自らアドバイスを求めに行かないと先輩運転者からも情報が得られなかった。これらのことが、いつからか当該運転者がフットブレーキを多用するなどの自己流の運転を始め、その危険性を理解することができていないまま、過去の経験を超える急勾配の連続する事故地点道路においても同様の運転を行った要因となった可能性が考えられる。

このように、当該事業者が組織として、貸切バスの運転者として経験が必ずしも多くない当該運転者の、運転技術や知識を随時確認するとともに、その向上を図ろうとする仕組み作りや職場環境作りに欠けていたことが本事故の背景にあったと考えられる。

教育って本当に難しいですよね。eラーニングも効率ばかりの議論が多いようですが、こういう報告書を見ると、効果・成果が重要だと思います。

 

あわや軽井沢スキーツアーバスと同じくらいの事故。あの教訓は生きているのかいないのか。