昨年12月23日、事業用自動車の事故調査委員会の報告書が公表されました。タクシーの死亡事故です。
概要
令和2年 12 月 17 日 20 時 50 分頃、北九州市戸畑区の市道において、タクシーが後部座席に乗客3名を乗せて住宅地内の下り勾配の道路を走行中、一時停止標識及び停止線がある交差点にて一時停止することなく直進し、同交差点先の左カーブにおいて、道路右側にある民家の塀の角部分に衝突し、さらに、車体右側面を塀及び擁壁に接触させながら前進し、その先の電柱に衝突して停止した。この事故により、タクシーの乗客1名が死亡し、1 名が重傷、1 名が軽傷を負った。また、この衝突事故が原因であるかは不明であるが、タクシーの運転者が死亡した
乗客1名と運転者が死亡
・乗客は3名ともシートベルトを着用していなかった。
加速したままノーブレーキで? EDR情報からわったこと。
EDR情報が報告されています。重要な情報です。
2.1.2.1 EDR の記録
同装置(タイプ:06EDR)の記録からわかることを以下に示す。
・衝突については、車体前面及び側面からの衝突によって車体に生じた速度の変化量が記録されている。
・衝突時の車両速度については、事故地点に至る4秒前には 46km/h(エンジン回転数:3,200rpm、アクセル開度5:65%)であったが、その後1秒毎に 58km/h(3,600rpm、70%)、70km/h(4,000rpm、65%)、80km/h(4,400rpm、65%)と加速しており、事故地点では 88km/h(4,400rpm、60%)に達している(図2参照)。この間、アクセル開度は、60%から 70%の範囲にあるが、一方、ブレーキ信号については、全て「OFF」が記録されており、事故地点までブレーキが全く操作されなかったことが示されている。
当該事故を端緒とした監査の結果
次の 25 件の違反が認められた。
・運行管理者の選任(解任)届出違反(道路運送法(以下「法」という。)第23 条第3項)
・苦情処理の記録の記録義務違反(旅客自動車運送事業運輸規則(以下「運輸規則」という。)第3条第2項)
・運賃・料金・運送約款の公示義務違反(運輸規則第4条第1項)
・運賃・料金の額の事業用自動車内への表示義務違反(運輸規則第4条第3項)
・乗務時間等の基準の遵守違反(運輸規則第 21 条第1項)
・疾病、疲労等のおそれのある乗務(運輸規則第 21 条第5項)
・点呼の実施義務違反(運輸規則第 24 条)
・点呼の記録義務違反(運輸規則第 24 条第5項)
・点呼の記録事項義務違反(運輸規則第 24 条第5項)
・乗務等の記録事項義務違反(運輸規則第 25 条)
・事故の記録事項不備(運輸規則第 26 条の2)
・乗務員台帳の作成義務違反(運輸規則第 37 条第1項)
・乗務員台帳の記載事項義務違反(運輸規則第 37 条第1項)
・運転者に対する指導監督違反(運輸規則第 38 条第1項)
・運転者に対する指導監督の記録違反(運輸規則第 38 条第1項)
・特定運転者に対する特別な指導監督違反(運輸規則第 38 条第2項)
・特定運転者に対する適性診断受診義務違反(運輸規則第 38 条第2項)
・全従業員に対する指導監督違反(運輸規則第 38 条第5項)
・運転者に対する地理、応接の指導監督違反(運輸規則第 39 条)
・整備管理者の選任(変更)届出違反(運輸規則第 45 条、道路運送車両法第52 条)
・定期点検整備の実施違反(運輸規則第 45 条、道路運送車両法第 48 条)
・運行管理者の補助者の要件違反(運輸規則第 47 条の9第3項)
・運行管理規程の制定義務違反(運輸規則第 48 条の2)
・輸送の安全に関わる情報の公表違反(法第 29 条の3)
・事業の健全な発達阻害行為(社会保険未加入)(法第 30 条第2項)
健康診断・・(運転者は74才)
2.4.3.3 健康状態
当該運行管理者の口述及び健康診断結果の記録によると、当該運転者の健康状態は次のとおりであった。
(1) 当該運行管理者の口述
・当該運転者に高血圧の持病があることは把握していたが、薬を服用していたかについては把握していなかった。
・当該運転者から、心疾患の持病があることは聞いていなかった。また、当該運転者が心臓病の薬を服用していたかについても把握していなかった。
・当該運転者が通院していることだけは知っていた。
・過去の健康診断において、当該運転者に心疾患の指摘があったかは把握していない。
(2) 健康診断結果の記録
・当該運転者は、平成 28 年9月及び平成 29 年9月に定期健康診断を受診しているが翌年から受診していない。
・当該運転者が受診した定期健康診断において、2年連続で心電図に所見が記載されている。
再発防止として以下が示されている。
5.1.1 運転者の健康管理の徹底
5.1.2 運行管理に係る法令遵守の徹底
5.1.3 事前に身体の異常な兆候が把握できないような事態への対処
5.1.4 乗客に対するシートベルト着用の徹底
5.1.5 本事案の他事業者への水平展開
5.2.1 安全運転支援装置の導入
5.2.2 予防安全対策装置の開発・普及
「ヒト」が運転する場合はもはや、生体回路と、車両の回路が接続され、一体のほうがいいのかもしれない。