知床遊覧船事故

 

船舶

 

運行管理者

 

運航管理者

 

海事

 

運輸安全委員会

 

運航管理者と運行管理者。知床遊覧船事故と軽井沢スキーツアーバス事故の類似点について考える。

2022.9.27

(はじめに。本記事、長いです!。お時間あるときにどうぞ)

5ヶ月前の事でした。いまだに信じがたい事故であり、当事者ではない人でも思い出すのが辛い事故・・。

この事件の特徴は、行方不明の多さ。事故そのものの甚大さが、いまだに確定していないのです。事故を忘れてはならない・・どころかいまも「事故のまっただ中」です。遺骨が、人骨が、遺留物が、9月に入ってもいまだに発見されていない方もいるという。見つかっても、時には国境を越えているという痛ましさ。

いったい何人が死亡が確認できて、何人が骨で発見されて、いま、何人が行方なのでしょうか?

国土交通省の報告書が出てきています。あらためて、何が明らかになりつつあるのか、振り返って見たいと思います。

この事件の特徴をあらわすために、話を、2021年に巻き戻したことろから振り返ってみます。

 

遡ること、2021年5月15日 

令和3年5月15日11時頃、旅客船「KAZU I」は旅客19名を乗せ、北海道知床半島沖を航行中、見張りを適切に行っていなかったため、漂流しているロープの塊に接触し、その際の衝撃により旅客3名が負傷した。また、同年6月11日10時頃、旅客船「KAZU I」は、旅客21名を乗せ、北海道知床半島沖を航行中、見張りを適切に行っていなかったため、浅瀬に乗り揚げた。

日付をご確認ください。2021年の5月のこと。2022年4月23日から遡ること、1年未満。

遡ること、2021年6月11日

同年6月11日10時頃、旅客船「KAZU I」は、旅客21名を乗せ、北海道知床半島沖を航行中、見張りを適切に行っていなかったため、浅瀬に乗り揚げた。

日付をご確認ください。2021年の6月のこと。2022年4月23日から遡ること、10ヶ月前。

 

遡ること、2021年6月24日~6月25日

 

同年6月24日及び25日、海上運送法に基づく特別監査を実施したところ、輸送の安全を阻害している事実が認められたため、同年7月20日、運航管理者は、全従業員に対し、安全管理規程に係る安全教育を定期的に行い、その目的及び手順の周知徹底を図り、不測の事態に際しては航行継続の中止を含む適切な措置を躊躇なく講じるよう明確な指示を与え、安全確保を最優先とする意識の定着を図ることを含む指導を行った

特別監査の結果は文書指導という行政処分でした。
この内容で文書指導・・・? そういう法令、監査ルールなのか・・。

命令または指導の内容が、10項目もあります。これは、出来ていなかった、違法だった点が指摘されたと考えられます。言い換えてみましょう。

1.法令を遵守し、「法令に抵触する改造等を行っていた」
2.安全統括管理者は、全従業員に対し、安全管理規程(運航基準、作業基準、事故処理基準を含む。)に係る安全教育を定期的に「行っていなかった」
その目的及び手順の周知徹底を「図っていなかった」
不測の事態に際しては航行継続の中止を含む適切な措置を躊躇なく講じるよう明確な指示を与え、安全確保を最優先する意識の定着を図ること。
3.運航基準に規定されている運航管理者への定時連絡を「確実に実施していなかった」
4.安全統括管理者(運航管理者)は、「常に連絡を取れる状態を維持していなかった」
、事故発生時等に際しては確実に報告を受け、「必要な措置を講じられる体制を確立していなかった」
5.海上運送法第11条第1項但し書き(法23条による準用)に係る変更の届出を速やかに提出すること。(主機換装による連続最大出力変更)
6.「運航の可否判断、運航中止の措置及び協議内容を運航記録簿に記載していなかった」
7.最新の速力基準表を船橋に「提示していなかった」
8.定期的に船内巡視を実施し、巡視結果を「巡視記録簿に記録していなかった」
9.毎日陸上施設の「点検を実施し、点検簿に記録していなかった」
10.浮遊物に接触する恐れのある状況が予見される場合には、船内放送により注意を喚起するなど、安全を確保するために必要な事項の周知徹底を図ること。

 「  」と赤文字は筆者が書き換えたものです。実態があれば、指摘されなかったはずのもの。行政が言いがかりをつけるはずがありません。上記が実態だったということだと私は考えます。

遡ること、2021年7月20日

同社は、

 運航管理者は、全従業員に対し、安全管理規程に係る安全教育を定期的に行い、その目的及び手順の周知徹底を図り、不測の事態に際しては航行継続の中止を含む適切な措置を躊躇なく講じるよう明確な指示を与え、安全確保を最優先とする意識の定着を図ることを含む指導を行った

模様。
 

遡ること、2021年7月30日

(有)知床遊覧船が北海道運輸局へ改善報告


北海度運輸局は、この日、上記内容を確認したようで(確認方法不明、文書? 電話?)

是正確認済(是正確認日:令和3年7月30日)

としています。

遡ること、2021年10月30日

 

北海道運輸局職員が事前の連絡無く本船及び事務所を訪問し、改善内容について確認

おや? 前項目で 2021年7月30日  是正を確認済み となっていますが、なぜか10月に、「無通告」で改善内容の確認をしています。7月30日の報告について何かペンディングがあったのでしょうか。それとも、運輸局は同社の報告内容がアヤしかったので、抜き打ちをしたとか????

 

ここからしばらく、何もなかったようです。シーズンオンオフに入ったからでしょうか。

そして・・

事故3日前、2022年4月20日のこと

 

旅客船「KAZU Ⅰ」について、JCIによる中間検査を受検、通信設備を船舶衛星電話から携帯電話に変更

船舶検査(中間)があったようです。 携帯電話使用が認められたようです。

  

 

 

・・・・・・・・

 

2022年4月23日

事故発生。

 

 

総理指示

令和4年5月11日 知床遊覧船事故対策検討委員会
https://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_fr4_000036.html

4月23日から18日後、5月11日 対策検討委員会が立ち上がっています。
このとき岸田総理は、国土交通省に対して、このような指示を出しています。
 

” 今般の事故を受け、徹底的な安全対策について考えていくことが重要であるため、国土交通省に対して、法的規制のあり方も含めて、安全対策のあり方について検証あるいは検討を行う検討会を立ち上げ、徹底的な安全対策を講じていくよう指示 ”

以下のようなことが検討されることとなりました。

 

○ 事業参入の際の安全確保に関するチェックの強化(役員・運航管理者の資質の確保 等)
○ 安全管理規程の実効性の確保 (気象・海象を踏まえた運航可否判断の適正化 等)
○ 監査・行政処分のあり方
○ 船員の技量向上(船長になるための運航経験 等)
○ 船舶検査の実効性の向上(検査内容の重点化 等)
○ 設備要件の強化(無線・救命設備 等)
○ 利用者への安全情報の提供
○ その他
※旅客輸送を行う事業について、法的規制のあり方も含めた上記の事項に関する安全対策を検討します。なお、現在実施中の特別監査の内容や、検討委員会における議論等を踏まえつつ、検討事項の追加・変更を行います。


では、どのよう人達がこれだけの大きな事故の対策を考えてゆくのでしょうか。以下、選出された委員の方々。

 

 

2022年4月23日(土)”午後2時頃、「KAZU I」から(有)知床遊覧船の事務所に「船首が30度ほど傾いている」と連絡。以後、「KAZU I」からの連絡は途絶える”

5月11日の対策検討会の資料を見ていきたいと思います。

まず、第一回対策検討委員会の資料3において、時系列で事故当日の模様が。

<4月23日(土)>
〇 午前10時00分、「KAZU I」が乗員2名、乗客24名(うち子供2名)を乗せ、斜里町ウトロ港を出航。
※出航当時、斜里町には強風注意報が発表されており、朝から夜遅くまで最大風速15メートルの強風が予報されていた(参考)2022年04月23日 03時09分 網走地方気象台発表斜里町 [発表]強風注意報(注意期間:23日朝から23日夜遅くまで)海上:最大風速 15メートル 陸上:最大風速 12メートル 風向:西の風
〇 午後1時00分、帰港予定時間になっても「KAZU I」が帰港せず。
○ 午後1時13分、「KAZU I」からの無線連絡を受けた他の運航会社から海上保安庁に通報。※当時、(有)知床遊覧船の事務所の無線は故障しており、無線連絡を受けられなかった
○ 午後2時頃、「KAZU I」から(有)知床遊覧船の事務所に「船首が30度ほど傾いている」と連絡。以後、「KAZU I」からの連絡は途絶える。
〇 午後4時30分、国土交通省事故対策本部設置。
○ 午後4時30分頃、海上保安庁航空機が現場に到着し、捜索救助活動を開始。
〇 午後7時40分、第1管区海上保安本部からの災害派遣要請を航空自衛隊が受理

 

船にいたのは、26人でした。

 

2022年4月24日(日) 翌日の動き


○ 午前11時27分、国土交通省現地対策本部設置。

午後4時15分、海事局及び北海道運輸局による特別監査開始(継続中)。
 
 有限会社知床遊覧船に対する特別監査の実施について
 
○ 斉藤国土交通大臣が現地訪問・ご家族と面会。

〇 海事局から全国の旅客船事業者に対し、安全確保の再徹底を指示。

〇 運輸安全委員会が3名の調査官を派遣。

要救助者11名救出。(その後死亡を確認)

 

2022年4月25日(月)

事故から2日後、国土交通省から公表された内容。


○北海道知床遊覧船事故の乗船者やそのご家族等からのご相談窓口の開設について


全国の運輸局等において、旅客船事業者に対する緊急安全点検を開始

 

2022年4月26日(火)

この日4月26日の国土交通大臣会見にて、4月24日朝7時から、4月25日の動きが報告されています。

(問)知床しれとこ半島沖での観光船の事故について、現在の国土交通省での捜索の状況、また、特別監査の状況について教えてください。

(答)まずは、今回の事故によりお亡くなりになられた方々およびその御家族の皆さま方に対し、心よりお悔やみを申し上げます。また、今回の事故に遭遇された皆さまに、重ねて衷心よりお見舞い申し上げます。

4月23日午後1時13分頃、北海道知床沖を航行中の観光船「KAZUIカズワン」が浸水している旨の情報が海上保安庁に寄せられました。本情報を受け、海上保安庁では、巡視船艇・航空機等を現場海域に急行させ、現在も関係機関とともに、懸命に捜索救助活動を行っています。

本日午前7時時点において、行方不明者となっている乗員・乗客26名のうち、11名を発見・救助しましたが、11名の死亡が確認されています。

また、国土交通省として現地での対応に万全を期するため、24日には私が現地に赴いて今後の対応を指示するとともに、25日からは渡辺わたなべ副大臣を現地対策本部に派遣し、陣頭指揮を執らせています。

さらに、国土交通省では24日に、乗客の御家族等のための相談窓口を開設し、24時間体制で御相談や御要望にお応えするとともに、現地対策本部において、最新の捜索救助の状況等をお知らせするため、説明会を毎日3回開催しています。

引き続き、御家族の方々のお気持ちに寄り添い、関係機関とも連携しながら、十分な情報提供に努めてまいります。加えて、運航会社等への対応として、24日から事業所に立ち入り、特別監査を開始するとともに、全国の旅客船事業者に対して、安全確保の再徹底を指示し、また、25日から旅客船事業者に対する緊急安全点検を実施しています。

国土交通省としては、引き続き、捜索救助活動をはじめとする事故対応に全力を挙げて取り組むとともに、安全対策の徹底に万全を期していきたいと思っています。

今回の特別監査においては、事故時の状況、運行管理体制、乗組員の安全教育や、昨年の同社への指導を踏まえた、その後の安全管理規程の遵守等について、重点的に監査を行うこととしています。

一昨日24日、昨日25日に監査を行い、社長からの聞き取りや、関係書類の確認等を行っており、本日以降も実施してまいります。

 

2022年4月28日(木)


小型船舶での旅客輸送における安全対策を総合的に検討するため、「知床遊覧船事故対策検討委員会」を
設置。


〇 要救助者3名救出。(その後死亡を確認)


2022年4月29日(金)


○ 午前、カシュニの滝約1km沖合の水深約120mの海底で「KAZU I」を発見。

 

 

 

事故から一週間。ここからGWに入り、国土交通省の報道はいったん止まります。

このあと、捜索は続き、GW空け、検討委員会資料において

5月9日現在、14名救助・12名行方不明


となっていました。

資料では救助となていますが、実際は死亡です。この時点で、14名/26名。

とてつもない大惨事です。

この時点で、表題にもある、軽井沢スキーツアーバス事故の死者とほぼ同数、近年まれに見る事故が起きてしまったわけです。あの事故以上の規模の旅客事故が、この時代において起きるとは思いませんでした。

 

2022年5月10日(火)



〇 国土交通省が小型旅客船の緊急安全対策を発表。


緊急で点検せよ!とされた内容は、以下。

・船長・運航管理者による気象・海象情報の確実な把握と適正な判断
・悪天候の場合の運航管理者による船長への運航中止の確実な指示と記録
・船舶の出港から帰港までの間の運航管理者又は運航管理補助者の常駐
・船長から事業所への定点連絡の確実な実施と記録


どんな船だったか?

あらためて、第1回検討会資料から。
すでに報道では名前が出ていましたが、この検討会であらためて正式に船名、社名、事故概要が公表されました。

どんな運航会社であったか?

実は、1年前に、2ヶ月で2度の事故を起こしていた運航会社であった。

冒頭に記載したのは、検討会のこの資料と国交省のネガティブインフォメーションの行政処分公表データを参照しています。

 

小型船による旅客輸送に関する制度の概要

 

基本的な許認可の解説のほか、今回事故と関係する法規が整理されています。

 

これが、知床遊覧船の安全管理規定である(2021年7月31日改訂)

 

有限会社知床遊覧船の

安全管理規程 

ここまでが、初動の情報です。すでにこの時点で何が規制強化されそうなのか、想像できます。

旅客船舶版のGマーク制度ができるかもしれませんね・・。

この日の議事録です。

第一回目の議事録

 

2022年5月20日 第2回対策検討委員会

第2回の対策検討委員会が開催されました。以下、資料2から抜粋です。

 

以下、第2回対策検討会の議事録です。

2022年5月24日 有限会社知床遊覧船の特別監査結果の公表、違反条項31件。

事故後すぐにおこなわれた特別監査の結果がでました。

事業許可を取消すべきであるとの判断に至りました。

当然と思われます。違反とされた法令は、31もありました。

2022年5月24日 世界経済フォーラム 日本が観光ランキングNo1に。

 余談ですが、皮肉にもこの日、世界経済フォーラムから世界の観光ランキングで2021年度日本がTOP1となったことが世界中で報道されました

このキラキラした事実と、これを裏切るような同社の違反の実態。同日に公表されるとは何という皮肉。

第3回検討委員会に提出された伊藤委員の意見書からこのことを知りました。

○防火対象物適合表示制度 、貸切バス事業者安全性評価認定防火対象物適合表示制度 、貸切バス事業者安全性評価認定などを参考として、 利用者が事業者の安全に対する取組み等を簡便に確認できるような仕組みを 、旅客船業界が率先して検討いただきたい 。コロナ禍において、各業界が対策取組み等を具体的に公表し利用者の安全と安心をアピールした先行事例があり、遊覧船の全運航取組みも同様と考えます 。
折から、 訪日外国人観光客の受け入れ再開 、また 5月24日「世界経済フォーラム」 が発表した観光産業の競争力ランキングで 、117の国と地域の中で日本は世界1位とされ、特に交通インフラの安全性等への評価が高い状況を鑑みると、観光遊覧船業界を挙げて早急に利用者に対する安全情報の開示に取組み、失った信頼回復努めていだきたい。
以上

第3回のテーマ

 

第3回目の議事録です。

 

2022年6月4日 第4回対策検討委員会

 

次々と、「方向性」が決まってゆきます。テーマ別の検討資料からいくつか抜粋します。

議事録です。

 

2022年6月16日 有限会社知床遊覧船 事業許可取消処分「決定」の報道

監査の結果が公表されたのは5月でしたが、正式に事業許可取消が決定されたのはこの日です。

https://www.mlit.go.jp/nega-inf/cgi-bin/search.cgi?jigyoubunya=senpaku&EID=search&no=14

 

あらためて、この内容を読むと、何とも言えない思いが湧いてきます。
そして、軽井沢スキーツアーバス事故当時の既視感が強烈に湧き上がるのです。

 

2.特別監査において確認した主な違反事実
前回監査での指導等にも関わらず、会社は再び下記違反を繰り返し、安全管理規程により構築されるべき複層的なセーフティネットが失われたことが今回の重大な事故の発生と被害の拡大の大きな要因となった。

【運航管理者等の職務及び勤務体制】
○安全管理規程上、安全統括管理者及び運航管理者に求められる責務は重大であるにも関わらず、安全統括管理者と運航管理者を兼任する会社社長(以下「社長」という。)は、両ポストに求められる職務を理解せず、法令や安全管理規程への理解も不十分であり、その遂行を怠っていた。
○また、運航管理者は、事故当日の運航において、KAZUⅠ(以下「本船」という。)が運航している間、営業所への常駐義務を果たさず、また、運航中は運航管理補助者も不在という状態であった。さらに、自らが職務をとれない場合に業務を引き継ぐべき運航管理者代行を置くことも怠った。
○前回監査においても、運航管理者等について必要な勤務の体制を確立すべきことが指導されているにも関わらず今回の事故が発生したことから、会社が安全マネジメントを的確に実施し安全の確保を日常的に行っていく組織風土を持っているか強い疑問を禁じ得ず、会社の安全管理体制は欠如していたと言える。

【運航管理者の資質】
○令和3年3月、会社は、社長を運航管理者に選任する届出において、実際には運航管理の実務の経験がほとんどなかったにも関わらず、海上運送法施行規則における運航管理者の資格要件である「船舶の運航の管理に関し3年以上の実務の経験を有する者」に該当する旨の虚偽の届出を行っていた。
○このように、運航管理者は輸送の安全の確保の要であるにも関わらず、一定の知識・経験を有する者が運航管理者に選任されていなかったため、輸送の安全確保の仕組みを著しく形骸化させた。

【安全教育】
○甲板員及び事務員に対して、法令や安全管理規程をはじめとする輸送の安全の確保に係る安全教育が実施されていなかった。
○前回監査においても、全社員に対して安全管理規程に係る安全教育を定期的に行うことが指導されているにも関わらず、運航に関わる業務を行う職員の経験・教育の不足が再度露呈し、会社の運航管理が適切に行われていなかった。

②発航基準に対する違反
○本船船長は、本件事故当日、斜里町において、当日3時9分に海上で6時から 24時まで風速 15.0m/s 以上とする強風注意報、9時 42 分に海上で9時から 12 時まで波高 2.0m、12 時から 15 時まで波高 2.5m とする波浪注意報が発表されており、発航以前の時点で運航基準に基づく発航を中止すべき条件(風速8m/s 以上、波高1m 以上)に達するおそれがあったことが明らかであるにも関わらず、本船船長は発航を中止しなかった。
○また社長は、運航管理者として自ら気象・海象等を詳細に確認することを怠った結果、本船船長に対して、運航中に気象・海象が悪化した場合はその時点で引き返す「条件付き運航」として発航を認め、安全管理規程が運航管理者に求める発航中止の指示を行わなかった
○さらに、本件事故当日、運航管理者及び本船船長は、運航可否判断等の結果を記録していなかった

〇前回監査においても、運航可否判断等の結果の記録を指導しているにも関わらず、運航管理者及び本船船長はその記録を怠り、安全な航行を担保するための発航基準を遵守していなかったことから、事故当日に本船の発航を止められず、両者に求められる職務を全く果たしていなかった

 

④定点連絡の不履行
○安全管理規程において、船長は運航中に所定の地点で運航管理者に連絡をするとともに、運航管理者は船舶の動静を把握できないときに必要な措置を講ずべきとされている。
○しかしながら、事故当日は本船船長から運航管理者への定点連絡が全く行われず、社長は、運航管理者代行や運航管理補助者を置かないまま事務所を不在にして、本船の動静の把握を怠った。
前回監査においても、運航管理者への定点連絡を確実に実施することが指導されているにも関わらず、本船船長、運航管理者ともに安全管理規程において両者に求められる職務を果たしていなかった。

○なお、会社の事業許可取消後における、今回の事故で被害に遭った旅客のご家族への対応について、今回の特別監査においては会社は旅客1人あたり1億円を支払限度額とする損害賠償責任保険に加入していることを確認しているが、事業許可の取消後においても、事業者に対して引き続きご家族への真摯な対応を求めていくべきである

 

 

2022年6月24日

第5回目の対策検討委員会が開催されました。テーマ別の検討資料からいくつか抜粋します。

自動車運送事業にあるような違反点数制度がなかったわけです。
いかに、船舶業界の「制度」が、他の旅客運送事業とかけ離れていたかが、だんだんわかってきました。

当然、点数制度を導入するナガレです。

公表に関するガイドラインができるようです。

議事録

2022年7月14日 第6回対策検討委員会

第5回目の対策検討委員会が開催されました。だんだん施策が具体的になってきました。

ものすごく、変わりそうです。海事行政としては歴史に残る制度改革、といっていいかもしれません。軽井沢スキーツアーバス以上の制度改革インパクトがあります。

発生からちょうど3ヶ月。中間とりまとめ(案)までこぎつけています。

2022年7月15日 全国の旅客船事業者に対する「緊急安全点検」の実施結果について

https://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji06_hh_000269.html

なぜ7月14日の検討委員会でこの事実が議事に入っていなかったのか? ナゾです。

翌日にこれを公表するとは、どういうことなのでしょう? 不都合が?

ええ、おそらく不都合が。

2022年4月23日の事故直後、4月25日から5月31日までの間、全国790の旅客船事業者に対し、海上運送法に定める安全管理規程の遵守状況等に着目した「緊急安全点検」を実施し、この結果、162事業者において不備を確認し、直ちに是正を指示したという。

対象事業者リストです。読者の中にこの点検を受けた方もいらっしゃるかもしれませんね。

こちらが点検結果。驚くべき結果かもしれません・・。

違反ワースト上位3つは・・・。

一位:運航記録簿の記載不備(発航中止の判断の不記載等)52事業者

二位:その他不備等(アルコール検知器未導入、速力基準の掲示場所が不適切 等)45事業者

三位: 安全教育・訓練の未実施、記録不記載(*)  40事業者

三位: 安全教育・訓安全管理規程の備付け不備 40事業者

(*最新版でない、船内に備え置きされていない 等)

船舶業界ではどうやら、自動車運送業界でも過去(いまも)起きていた(おきている)、「点呼未実施、点呼記録なし、検知器ナシ」という状態であることがこの緊急点検で明らかになりました・・・。

「有限会社知床遊覧船という会社の組織風土」の前に、「業界風土」なのかもしれません。これを見ると。

2022年8月10日 運輸安全委員会の調査内容

令和4年8月10日 運輸安全委員会としての調査内容が公表されています。
https://www.mlit.go.jp/jtsb/iken-teikyo/s-teikyo20_20220810.pdf

ここでは、「乗組員2人・旅客24人の計26人が死亡・行方不明となった」とされています。

海事局も、運輸安全委員会も、死亡人数、行方不明人数を8月になっても内訳すら公式に言えないという異常な状態が続いています。はっきりしているのは、26の遺族は26人に生きて会うことはできないということだけ。

2022年8月31日 安全情報の変更

いくつか施策が実行されています。

 

報道資料:旅客船事業者に関する安全情報の提供を拡充します


https://www.mlit.go.jp/nega-inf/

軽井沢スキーツアーバス事故との類似点

2022年4月23日、事故を知って思い出したのは、軽井沢スキーツアーバス事故でした。あれとまったく同じだ、と思った人は、運輸業界に多くいたと思います。

軽井沢スキーツアーバス事故とは、こういう事故でした。

検討委員会最終とりまとめ「安全・安心な貸切バスの運行を実現するための総合的な対策」(平成28年6月3日)冒頭より。

本年1 月 15 日未明、長野県軽井沢町の国道18 号線碓氷バイパス入山峠付近において、乗客39名を乗せた貸切バスが反対車線を越えて道路右側に転落する重大事故が発生し、乗客13名、乗員2名の計15名が死亡、乗客26名が重軽傷を負った。亡くなった乗客13名の方々はいずれも大学生であった。未来への希望あふれる若い命が突然奪われ、被害者の無念とご遺族の思いは察するに余りある。

この事故に先立つ平成24年4月、乗客7名が死亡する関越道高速ツアーバス事故が発生したことを受け、貸切パスの安全対策の強化が図られてきたが 、今回の事故を防ぐことはできなかった。貸切バスは、内外の観光客や通学、通勤等の足として、年間3 億 2 千万以上の人々に利用されている。どうすれば対策の実効性を確保し、二度とこのような悲惨な事故が起こらないようにすることができるのか、貸切バスの運行に係る関係者は、改めて重い課題を突きつけられている。当委員会は、本年1月29日から10回にわたって議論を行い、3月29日の中間整理を経て、被害者とご家族からのご意見等も踏まえつつ、この度、 再発防止策について徹底的に検討し、安全・安心な貸切パスの運行を実現するための総合的な対策をとりまとめた。

事業用自動車事故調査報告書に、

当該事業者は、本事故の約1年前の平成27年2月20日に一般監査を受けており、その結果、3件の違反行為を指摘され、行政処分を受けている。
(1) 監査結果の概要
① 行政処分等の状況
平成 28 年1月 13 日 輸送施設の使用停止 20 日車
② 違反行為の概要
・健康状態の把握義務違反(旅客自動車運送事業運輸規則(以下「運輸規則」という。)第 21 条第5項):運転者に健康診断を受診させていなかった。
・点呼の実施等義務違反(運輸規則第 24 条)
・初任運転者に対する適性診断受診義務違反(運輸規則第 38 条第2項)
(2) 当該代表者の口述
平成 27 年2月の監査についての当該代表者の口述は次のとおりである。
・指摘を受けて初めて運行管理の実務に問題があることを認識した。それまでは、指摘された行為が違反行為であるとの認識がないまま運行管理を行っていた。

 

上記が、ビフォー。以下、アフター特別監査。

 

(1) 行政処分等の状況
平成28年月19日 許可取消(併せて、当該運行管理者は運行管理者資格者
証の返納命令を受けている。)
(2) 違反行為の概要
・適正運賃収受違反(道路運送法第9条の2第1項)
・事業計画の変更認可違反(道路運送法第 15 条第1項)
・休憩、仮眠又は睡眠のための施設の変更届出違反(道路運送法施行規則第 66条第1項第6号)
・事業計画の事前変更届出違反(道路運送法第 15 条第3項)
・営業区域外旅客運送(道路運送法第 20 条)
・運行管理者の届出違反(虚偽)(道路運送法第 23 条第3項)
・運送引受書の記載事項の不備(運輸規則第7条の2第1項)
・領収証発行義務違反(運輸規則第 10 条)
・乗務時間等告示の遵守違反(運輸規則第 21 条第1項)
・健康状態の把握義務違反(運輸規則第 21 条第5項)
・運行に関する状況把握体制の整備違反(運輸規則第 21 条の2)
・点呼の実施等義務違反(運輸規則第 24 条)
・点呼の記録義務違反(不実記載)(運輸規則第 24 条第4項)
・乗務等の記録の記載事項不備(運輸規則第 25 条第1項)
・乗務等の記録保存義務違反(運輸規則第 25 条第4項)
・運行記録計による記録義務違反(運輸規則第 26 条第1項)
・運行記録計保存義務違反(運輸規則第 26 条)
・事故の記録義務違反(運輸規則第 26 条の2)
・経路調査等義務違反(運輸規則第 28 条)
・運行指示書の記載事項不備(運輸規則第 28 条の2第1項)
・乗務員台帳の作成、備付け義務違反(運輸規則第 37 条第1項)
・乗務員台帳の記載事項等の不備(運輸規則第 37 条第1項)
・乗務員台帳の保存義務違反(運輸規則第 37 条第2項)
・運転者に対する指導監督義務違反(運輸規則第 38 条第1項)
・高齢運転者に対する特別な指導義務違反(運輸規則第 38 条第2項)
・初任・高齢運転者に対する適性診断受診義務違反(運輸規則第 38 条第2項)
・事業用自動車内の運転者氏名等掲示義務違反(運輸規則第 42 条第1項)
・整備管理者の届出違反(虚偽)(道路運送車両法第 52 条)
・日常点検の未実施(道路運送車両法第 47 条の2)
・定期点検整備等の未実施(運輸規則第 45 条)
・点検整備記録簿等の記載義務違反等(運輸規則第 45 条)
・運行管理者に対する指導監督義務違反(運輸規則第 48 条の3)
・事故の未届出(道路運送法第 29 条)

当時の国交省のどなたかが、「ここまでひどい違反実態ははじめてだ」と新聞インタビューでしらけたことを言っていたことを覚えています。こういう実態の企業は2016年前にも多くいたことを知っていたはずです。運輸支局も、同業者も知っていたはずです。今回の知床の事故発生時から、知床遊覧船社の実態が報道されるたびに、行政や業界のだれかが、「似たような運航会社はいる」とか「ここまでひどい会社はいない」等、どう認識しているのか気になってきました。

私が思う類似点は、次のようなものです。私見です。

○膨大な死者数。

○ドライバーも、船長も、死亡。(何がおきたか、真実が見えない)

○ドライバーも、船長も、自身の技量に疑問をもっていた(事実認定されていないが)。

○両者とも、直近一年で監査を受けていた(行政処分、行政指導を受けていた)。

○運航管理者、運行管理者、ともに、過去に大きな事故を起こしていた

○国土交通省の対策(運航管理制度改革)は、当時の軽井沢後の対策と似ている(間違いではないが)。
 つまり、バス業界の大事故のときに、同様の手を打っていれば、という悔い。

○零細企業論が入る。

 

このあたりは、対策がはっきりきまってから、いつかまた論じたいと思います・・・

 

2022年9月4日 神戸で5名の死傷事故

死傷事故が続いています。

パイロットボートの監査対応について~神戸港における防波堤衝突事故関連~

https://wwwtb.mlit.go.jp/kobe/content/000272670.pdf

 

2022年9月28日 第7回

https://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji04_hh_000246.html

明日、開催されます。

内容がわかりましたらまたお知らせ致します。