監査分析
運輸関連法令のうち、道路交通法をのぞく、道路運送法、道路運送車両法、貨物自動車運送事業法が法令どおり事業者によって遵守されているかを知る方法が,運輸局による監査です。
2013年以降 運輸局の監査は以下の方針、ルールで実施されています。
○乗合バス事業者への監査方針について
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03punishment/data/transmittal.pdf
○貸切バス事業者への監査方針について
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03punishment/data/transmittal_kashikiri.pdf
○タクシー事業者への監査方針について
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03punishment/data/transmittal.pdf
○トラック事業者への監査方針について
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03punishment/data/transmittal.pdf
年間にどれくらい監査がある?
年間で行われる監査の件数が公表されています。
<自動車運送事業者に対する行政処分状況の年度別推移>
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/aftercheck.html
令和元年を見ると、年間約12000件の監査が実施されている模様。
傾向としては、
・全体の監査件数は減ってきている。
・トラック事業者の行政処分のうち、事業停止比率が高まっている
等が言えます。
事後チェック、監査は万能か?
2016年 軽井沢スキーツアーバス事故。運輸安全業界にとって、決して忘れることはできない事故だと思います。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/jikochousa/pdf/1641103.pdf
事故報告書P20、死亡事故を端緒とした監査の結果「33件」と報告されています。
違反行為の概要
・適正運賃収受違反(道路運送法第9条の2第1項)
・事業計画の変更認可違反(道路運送法第 15 条第1項)
・休憩、仮眠又は睡眠のための施設の変更届出違反(道路運送法施行規則第 66
条第1項第6号)
・事業計画の事前変更届出違反(道路運送法第 15 条第3項)
・営業区域外旅客運送(道路運送法第 20 条)
・運行管理者の届出違反(虚偽)(道路運送法第 23 条第3項)
・運送引受書の記載事項の不備(運輸規則第7条の2第1項)
・領収証発行義務違反(運輸規則第 10 条)
・乗務時間等告示の遵守違反(運輸規則第 21 条第1項)
・健康状態の把握義務違反(運輸規則第 21 条第5項)
・運行に関する状況把握体制の整備違反(運輸規則第 21 条の2)
・点呼の実施等義務違反(運輸規則第 24 条)
・点呼の記録義務違反(不実記載)(運輸規則第 24 条第4項)
・乗務等の記録の記載事項不備(運輸規則第 25 条第1項)
・乗務等の記録保存義務違反(運輸規則第 25 条第4項)
・運行記録計による記録義務違反(運輸規則第 26 条第1項)
・運行記録計保存義務違反(運輸規則第 26 条)
・事故の記録義務違反(運輸規則第 26 条の2)
・経路調査等義務違反(運輸規則第 28 条)
・運行指示書の記載事項不備(運輸規則第 28 条の2第1項)
・乗務員台帳の作成、備付け義務違反(運輸規則第 37 条第1項)
・乗務員台帳の記載事項等の不備(運輸規則第 37 条第1項)
・乗務員台帳の保存義務違反(運輸規則第 37 条第2項)
・運転者に対する指導監督義務違反(運輸規則第 38 条第1項)
・高齢運転者に対する特別な指導義務違反(運輸規則第 38 条第2項)
・初任・高齢運転者に対する適性診断受診義務違反(運輸規則第 38 条第2項)
・事業用自動車内の運転者氏名等掲示義務違反(運輸規則第 42 条第1項)
・整備管理者の届出違反(虚偽)(道路運送車両法第 52 条)
・日常点検の未実施(道路運送車両法第 47 条の2)
・定期点検整備等の未実施(運輸規則第 45 条)
・点検整備記録簿等の記載義務違反等(運輸規則第 45 条)
・運行管理者に対する指導監督義務違反(運輸規則第 48 条の3)
・事故の未届出(道路運送法第 29 条)
これは、「事後」です。
見逃してはならないのは、同じくP20に、ほんの10ヶ月前に、一般監査が行われていると報告されています。
2.4.3.1 平成 27 年2月の一般監査
当該事業者は、本事故の約1年前の平成 27 年2月 20 日に一般監査を受けており、その結果、3件の違反行為を指摘され、行政処分を受けている。
② 違反行為の概要
・健康状態の把握義務違反(旅客自動車運送事業運輸規則(以下「運輸規則」
という。)第 21 条第5項):運転者に健康診断を受診させていなかった。
・点呼の実施等義務違反(運輸規則第 24 条)
・初任運転者に対する適性診断受診義務違反(運輸規則第 38 条第2項)
2015年2月 一般監査 3件
2016年1月 特別監査 33件
監査および行政処分を受けたのに、その後運行管理体制が悪化したのでしょうか?
それとも、2015年の監査は、「うまく」逃れる(隠す、偽造する等)ことができたからでしょうか?
国土交通省・運輸局は、なぜ1年後の2016年に、これだけの違反を指摘できたのでしょうか。
なぜこれだけの違反がある状態でバス事業を行えたのでしょうか?
だいたいが、このような重大事故が発端となり、検討会等を経て、改正すべき法令や規則があれば案が作られ、パブリックコメントを募集し、結果、改正に至るという流れです。
被害者が出てからはじまる法改正。
そうではなく、事故の手前、ヒヤリハットである違反状況の把握から始まる、予防的な改正(先手を打つ)が必要ではないでしょうか。
もし、リアルタイムでモニタリングできれば、「対面による監査」の監督官庁側の人的工数も下がるでしょう。
事故(死者)だけが、アクションを起こすevidenceではありません。一般監査の結果、違反の概況にも、未来の死者を救うヒントが隠されているはず。
このページでは、消費者・事業者・行政 3者にとっての「監査のIT化」の意義を念頭に、社会的に法改正の根拠となる統計数字(定量数字)や、重大事故の報告、詳細分析(定性的な)等を取り上げてゆきたいと思います。
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