アルコール・インターロック

Breath Alcohol Ignition Interlock Devices

飲酒しているとエンジンがかからない

お酒を飲んでいるドライバーのクルマなんて動かなくしてしまえばいいのに。

1999年の東名高速の事故とき、2005年の多賀城市の事故のとき、2006年の福岡の事故とき、そう思ったひとは多かったでしょう。そして、2015年の北海道のときもまた、そんなクルマが、そんな技術があればいいのに、と思ったことでしょう。

呼気アルコールインターロックとうい装置(技術)は、1999年以前から存在していました。主に米国で、飲酒運転の違反をしたひとに装着させる装置として、当時急速に普及しはじめていました。


国土交通省の2014年の報道資料によれば、アルコールインターロックとは、このように定義されています。


「呼気吹込み式アルコール・インターロック装置」とは、エンジン始動時、ドライバーの呼気中のアルコール濃度を計測し、規定値を超える場合には始動できないようにする装置です。

米国での呼気アルコールインターロック普及


どれくらい普及しているのか?
最も普及しているのは、重大事故のうち1/3が飲酒運転だという、飲酒運転大国アメリカです。
https://tirf.us/wp-content/uploads/2018/05/2016-2017-AIIPA-TIRF-USA-Annual-Interlock-SurveyReport-24.pdf
年間約30万台が取り付けられています。


欧州での呼気アルコールインターロック普及


現在、欧州におけるアルコールインターロックの導入状況は
https://etsc.eu/alcohol-interlock-barometer/
このようになっております。

また、昨年、最近EUの議会において、欧州における新車への安全運転支援技術・製品の搭載について、明確に、8つの技術・製品の搭載促進が合意されたとの報道がありました。

Press release” Safer cars in the EU”
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2019/11/08/safer-cars-in-the-eu/

<New safety features in your car>
https://ec.europa.eu/docsroom/documents/29343

<Full text of the regulation>
https://data.consilium.europa.eu/doc/document/PE-82-2019-INIT/en/pdf

2022年以降の新車に搭載されるべき製品・技術として、
“Alcohol interlock installation facilitation (cars,vans, trucks, buses)
という一文があります。

また、フルテキストバージョンによれば、
‘alcohol interlock installation facilitation’ means a standardised interface that facilitates the fitting of aftermarket alcohol interlock devices in motor vehicles;
とあります。

一部報道では、アルコールインターロックの搭載が義務、とありますが、ここを見る限りは、車側に、アルコールインタ-ロック装置が後付で搭載しやすいように施工のための信号インターフェースを統一せよ、ということのようです。

いずれせよ、EUでは、路上でのさらなる死者をふやさないために、事故削減のための規制を強化する流れがあるようです。
アルコールインターロックの効果はEUでは確認済みのようで、
https://ec.europa.eu/transport/road_safety/specialist/knowledge/esave/esafety_measures_known_safety_effects/alcolocks_en
あとは、各国が施行までいつもっていくのかが注目されるところです。

 

アジア(台湾)での呼気アルコールインターロック

台湾では2020年2月 飲酒運転違反者向けの呼気アルコールインターロック装置の装着が法制化され、技術規格やが発布されています。
<車輛點火自動鎖定裝置安裝及管理辦法>
https://www.mvdis.gov.tw/webMvdisLaw/LawContent.aspx?LawID=A0087000

http://vsccdms.vscc.org.tw/webfile/Epaper/500000233/File/e3edbae4-27ce-49a3-a265-40e43133f198.pdf

https://www.npa.gov.tw/NPAGip/wSite/ct?xItem=95849&ctNode=11744&mp=28

日本での呼気アルコールインターロック

○2006年9月15日。
8月の福岡の飲酒事故の一ヶ月後、まず日本政府(内閣府)により中央交通安全対策会議 交通対策本部が招集され、各省庁、関係者へむけて飲酒運転根絶のための措置を講じるよう指示が出されました。

 

 <内閣府 中央交通安全対策会議交通対策本部決定 9月15日付>https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/inshu/inshu_02.pdf


『3 飲酒運転に対する車両技術開発の検討
飲酒運転防止に係る車両の技術開発状況を把握し、実用化に向けた技術
的課題の解決を図るなど、その開発方策について検討する』


車両や技術でどうにかできないだろうか? というアプローチ。

『4 常習飲酒運転者対策のための連携強化
アルコール依存症の者等の飲酒運転を抑止するための諸対策について、
関係行政機関及び飲酒運転対策に関係する団体との連携を強化し、その効
果的な実施を図るため、交通対策本部長の定めるところにより「常習飲酒
運転者対策推進会議」を開催する。


こちらは、『常習飲酒運転者』をどうにかできないだろうか、というアプローチ。

○2006年12月 
自民党の交通安全特別委員会 飲酒運転根絶プロジェクトチーム
『飲酒運転の根絶について』(中間報告・提言)
  
   3.飲酒運転常習者対策の推進
    
(1)アルコールインターロック装置の導入に向けた検討
     諸外国の実態等を調査するとともに、飲酒運転者等の車両に対す
     るアルコールインターロック装置の実用化に向けた技術的な課題及
     び導入の可能性について検討する。


○2007年1月 警察庁・経済産業省・国土交通省・自動車工業会による『アルコールインターロックに係る勉強会まとめ』
https://www.mlit.go.jp/jidosha/safety_data/alcohl_interlock/18_1/shiryou_3.pdf

○2007年3月 自動車研究所による平成18年度報告書
『アルコールインターロック装置の活用方策の検討のための基礎的調査』
https://www.mlit.go.jp/jidosha/safety_data/alcohl_interlock/houkokusho.pdf
福岡の一件から約半年後には、海外の動向や装置の使い勝手のアンケート等、アルコールインターロックに関する調査が報告されている。

7.4 まとめ
(1) 制裁としての装着
・アルコール・インターロック装置を装着することで,90%が飲酒運転事故は減ると回答している.
・飲酒運転事故の当事者への制裁としての装着は約 95%が支持しており,共用の車両への装着(約 90%)より多い.
・装着する対象は,飲酒運転違反者が 56%で最も多く, 33%が全車に装着すべきと回答している.
(2) 自分の車両への装着
・装置およびメンテナンス費用は現状に比べて非常に安いものを望むとする回答が多い.
・メンテナンス周期も現状に比べて長いものを望む回答が多く, 2 年毎(乗用車の車検の周期)が 45%である.
・飲まないものでは 67%が自分の車につけたくないと回答している.
・つけたくない理由は,呼気検査と走行中の検査の回答は少なく,エンジン始動時間がかかる,価格およびメンテナンスに関する回答が多い.
・各種改善が施されてもつけないとする回答が 44%であるが,一方で価格が安くなればつけるとする回答が 43%である.

○2007年6月 当面の常習飲酒運転者対策について(常習飲酒運転者対策会議)
https://www8.cao.go.jp/koutu/chou-ken/h21/pdf/ref/418-419.pdf 
ここではじめてアルコールインターロック装置に関する「有効性」の実証実験が行われることが明らかになりました。

○2007年7月
内閣府 中央交通安全対策会議 交通対策本部
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/inshu/inshu_h20.pdf
福岡の事故から1年をまたずに、続々と各施策が行われています。アルコールインターロック装置についても調査が本格化しました。

7.アルコール・インターロック装置の活用方策についての検討

  •  当面の対策を受け、国土交通省は、警察庁、法務省、経済産業省等の協力を得て、アルコール・インターロック装置の技術的要件について検討を進め、技術指針(案)を取りまとめた。
  •  今後、当該技術指針(案)等を踏まえ、内閣府において、関係省庁の協力を得て、平成20年度から、アルコール・インターロック装置の活用方策について多角的に検討する総合的な常習飲酒運転者対策についての調査を実施する。
  •  また、国土交通省において、関係団体に対し、アルコール・インターロック装置に関する検討会最終取りまとめについて情報提供を行う

○2007年12月
常習飲酒運転者対策推進会議決定
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/inshu-suisin.html
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/inshu/inshu-suisin.pdf

アルコール・インターロック装置に関する検討会最終取りまとめについて(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/09/091226_.html

○2009年3月
警察庁『常習飲酒運転者に講ずべき安全対策に関する調査研究』
https://www.npa.go.jp/koutsuu/menkyo1/h20houkoku.pdf
ここでは、海外のアルコールインターロック法制度の調査が詳しく報告されています。



○2009年3月
警察庁『常習飲酒運転者に講ずべき安全対策に関する調査研究(Ⅱ)』
https://www.npa.go.jp/koutsuu/menkyo1/h21houkoku.pdf

○2010年3月
内閣府
『平成21年度常習飲酒運転者の飲酒運転行動抑止に関する調査研究報告書』
https://www8.cao.go.jp/koutu/chou-ken/h21/houkoku.html

ここでは、アルコールインターロック装置の実証実験(33名)の結果が報告されています。

○2012年4月
国土交通省 呼気吹き込み式アルコールインターロック装置の技術指針
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000102.html

整理しますと
 

  • 2006年 福岡の事故
  • 2007年 内閣府、自民党によるアルコールインターロック調査
  • 2008年 常習飲酒運転者対策 アルコールインターロック海外調査
  • 2009年 内閣府常習飲酒運転者対策 アルコールインターロック実証実験
  • 2010年 内閣府の常習飲酒運転者の行動に関する調査結果公表
  • 2012年 国土交通省 アルコールインターロックの技術指針公表

 

結局6年間。

2012年の国土交通省の報道資料以後、呼気アルコールインターロック装置について、内閣府、警察庁ほか、司法・行政・自治体等によるアルコールインターロックについて特に大きな動きは結果的にありません。

海外では、アルコールインターロックの法制化が進み、メーカーやサービス事業者が増え、装着数が伸びてゆくのに対して、日本では、1999年以降、数多くの飲酒事故が起きるごとに、アルコールインターロックの調査や実証が行われたものの、主に厳罰化(道路交通法改正、飲酒運転致死傷罪、自動車運転致傷処罰)や、条例、違反者講習での飲酒日記等、が具体的な施策でした。
常習飲酒運転者対策は、いかに複数の手を効果的に打ち切るか、が重要で、はじめから選択肢を狭める(少なくする)ことで得をする人はいません。

アルコールインターロックさえあればすべての飲酒運転を無くせるという甘い夢をみている政策担当者も、メーカーも、いません。世界のトレンドを見るならば、厳罰化、教育・啓発、リハビリ、アルコールインターロック装置等、複数施策のハイブリッドを実現するのが主流であるように見えます。

WHOが2010年に発行した、
Global strategy to reduce the harmful use of alcohol
には、アルコール問題について、国(司法、立法、行政)、社会、企業、個人が実施すべき10分野が示されています。

  1. leadership, awareness and commitment;
  2. health services’ response;
  3. community action;
  4. drink-driving policies and countermeasures;
  5. availability of alcohol;
  6. marketing of alcoholic beverages;
  7. pricing policies;
  8. reducing the negative consequences of drinking and alcohol intoxication;
  9. reducing the public health impact of illicit alcohol and informally produced alcohol;
  10. monitoring and surveillance.

    アルコールインターロックは上記のうち
    4. drink-driving policies and countermeasures
    にある、以下、9種の具体活動のひとつと一般的には位置づけられます。

(a) introducing and enforcing an upper limit for blood alcohol concentration, with a reduced limit for professional drivers and young or novice drivers;
(b) promoting sobriety check points and random breath-testing;
(c) administrative suspension of driving licences;
(d) graduated licensing for novice drivers with zero-tolerance for drink-driving;
(e) using an ignition interlock, in specific contexts where affordable, to reduce drink driving incidents;
(f) mandatory driver -education, counselling and, as appropriate, treatment programmes;
(g) encouraging provision of alternative transportation, including public transport until after the closing time for drinking places;
(h) conducting public awareness and information campaigns in support of policy and in order to increase the general deterrence effect;
(i) running carefully planned, high-intensity, well-executed mass media campaigns targeted at specific situations, such as holiday seasons, or audiences such as young people.




・酒気帯び数値基準を、プロドライバー向け、若年ドライバー、初心者ごとに設定する
・飲酒検問と、検問時の飲酒チェック
・行政処分、免許停止、免許取り消しルール
・初心者への飲酒基準のゼロ許容値化
・アルコールインターロック装置の活用
・違反者への強制教育、矯正プログラムやカウンセリング
・酒類提供店舗の営業終了後の代替輸送手段
・社会への啓発、キャンペーンキャンペーン
・特定の場所(若者があつまる、休日等)へのマスコミキャンペーン
etc…

どの施策も、必ず出る話ですよね。だいたい、やってますよね・・。



あらゆる国がWHOの世界戦略に従い、包括的な飲酒運転防止政策を進めています。特に米国、カナダ、ヨーロッパ、韓国、台湾でアルコールインターロックの法制化の動向がくっきり見えてきています。

なぜ日本では、数ある常習飲酒運転者対策のひとつであるアルコールインターロックが話題止まりなのか? 
いったい、海外での常習飲酒運転者対策と、本の常習飲酒運転者対策に、どんな社会的、文化的、違いがあるのか? 

本ページでは、引き続き発生するかもしれない飲酒運転の態様をモニタリングし、ケースを分析しながら、日本の道路交通法、司法制度、条例におけるアルコールインターロックの導入の可能性を探っていきたいと思います。

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