飲酒運転根絶を条例で

危険運転致死傷罪について

1999年 東京都世田谷区で起きた飲酒運転事故。
この事故・事件から、まだ20年しかたっていません。いまの学生さんや、20代の社会人は、知らない人が多くなってきているかもしれません。


当時の報道資料が少なくなってきており、また、教則本での説明でも簡略化されることが多いようです。

その事件の悲痛な様は、2003年の民事訴訟の判例からうかがえます。

平成15.7.24 東京地方裁判所平成14年(ワ)第22987号 損害賠償請求事件 (3)本件事故の態様 より

『本件は,常習的に飲酒運転を繰り返していたトラックの運転手が減速しつつあった車両に追突して幼児2名を焼死させたという,日本の交通事故史上でも他に例を見ない悲惨で痛ましい事故であり,刑法改正により危険運転致死傷罪が新設される契機ともなった事件である。
本件事故は,被告Cが被告高知通運の業務で高知から東京へ向かう途中で発生したものであるが,被告Cは,高知から大阪へ向かうカーフェリー内において飲酒し,さらに本件事故の約3時間前の午後0時30分ころ,海老名サービスエリアにおいて,カーフェリーから下船する際に購入した250-入り缶酎ハイ1本を飲み,それでも足りずウイスキー約280-をストレートで飲み,呼気1-当たり0.63㎎という高濃度のアルコールを保有したまま運転を強行して本件事故を発生させたものであり,その事故に至る経緯は極めて悪質であるというほかはない』

この事故のみならず、他にも悪質な飲酒運転が当時多くあり、危険運転致死傷罪の新設や道交法の改正等、厳罰化が随時行われてきました。しかし、それでもなお厳罰化によって「逃げ得」事案が多くみられるようになり、現在は、

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
(略称 自動車運転処罰法または自動車運転死傷行為処罰法
が運用されています。

当時の経緯については、平成28年版交通白書
『自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行後の適用状況について〔制定趣旨及び適用〕』
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h28kou_haku/gaiyo/topics/topic06.html

7都道府県

飲酒運転は、たいていは、加害者も、被害者も、その県の住民同士であることが多いとされます。なぜなら、飲酒運転者は、わざわざ捕まるリスクを冒して遠くまで行ったり遠くから長距離飲酒運転をして帰宅しません。


起きた事故の衝撃から、地方自治体、被害者、住民等により、「あの事故を二度と繰り返さない」との強い思いで、飲酒運転を根絶するために条例を制定することがあります。

現在、7都道府県、1市で飲酒運転根絶を目指した条例が制定されています。

なぜ、このよな条例が生まれることになるのでしょうか?

宮城県飲酒運転根絶に関する条例

2005年5月のこと、宮城県多賀城市で、死者3名重傷者15名という、大きな飲酒運転事故がありました。当時、被害者がすべて高校生であったことから社会に大きな衝撃を与えました。判決文では裁判官が「交通犯罪市場希にみる悲惨なもの」と言った事件でした。

2006年 仙台地裁 平成17(わ)362  危険運転致死傷被告事件>より概略
「死亡した各被害者は,横断歩道上で,被告人車両に順次衝突され横断歩道上から相当の距離を跳ね飛ばされ,B及びCにあっては,外傷性脳損傷及び頚椎骨折の傷害を負って即死し,Dにあっては,頭蓋底骨折の傷害を負い,事故後1時間あまり後に死亡した。路上で,瞬時に絶命した衝撃や無念は計り知れず,また,衝突から死亡するまでの時間,味わったであろう精神的,肉体的苦痛には想像を絶するものがある。B,C及びDはいずれも,その両親ら家族の愛情を受けてすくすく育ち,それぞれの希望を胸に抱いて高等学校に通学し,まさにこれからという時に,15歳の若さでその将来を一方的に,永遠に奪われたのであり,その失われた未来を思うと,あまりに酷いと言うほかない。そして,その遺族,とりわけ,両親は,我が子を学校行事で送り出したところ,まさかの訃報に接し,看取ることすら叶わず,手塩に掛けて育てた子に先立たれたもので,その衝撃は計り知れない」
2008年 仙台地裁 平成20(わ)268  道路交通法違反幇助被告事件>より抜粋
「運転者が行った危険運転行為により生じた結果は,学校行事に参加していた高校1年生3名が死亡し,15名が重軽傷を負ったもので,検察官が論告で指摘するとおり交通犯罪史上稀にみる悲惨なものである」

2007年10月 宮城県飲酒運転根絶に関する条例を制定しました。
https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/87355.pdf
その冒頭には、やはり上記の事故が想記されているのです。

「私たちの生活は、「車社会」の進展とともに、利便性が向上し、経済的にも豊かさを増したが、一方で、被害者、加害者がともに大きな犠牲を払う悲惨な交通事故、中でも一人一人の取組によって防止できるはずの飲酒運転による交通事故は依然として後を絶たない状況にある。
このような中、平成17年5月22日には、飲酒運転により、学校行事に参加中の高校生の尊い命が奪われる交通死傷事故が発生し、県民に大きな衝撃と深い悲しみをもたらした。飲酒運転の根絶は、県民すべての願いである。
車を運転する者は、飲酒運転が引き起こす事故の重大性、一瞬にして人命を奪う車の危険性を十分に認識し、最大限の注意を払って安全運転を実践しなければならない。また、車を運転しない者も、家族や友人を加害者とさせないよう、飲酒運転をさせない環境を地域社会とともにつくり上げる必要がある。よって、私たちは、県、市町村、県民等が一体となり、「飲酒運転は犯罪」との意識のもと、「飲酒運転をしない・させない」という強い意志を持ち、飲酒運転の根絶に向けて取り組むことを決意し、この条例を制定する。

福岡県飲酒運転撲滅運動の推進に関する条例

2006年8月25日。
1999年のこども二人の飲酒運転事故の記憶がまだ新しい、2006年8月、福岡県で、こども3人が死亡する飲酒運転事故が起きました。またしても、両親の目の前で。


厳罰化につぐ厳罰化がありながらも、まだこんなことが起きるのか、と社会が騒然とした事件でもありました。当時、加害者が公務員(市の職員)であったことや、「飲酒検査結果を低くするため友人に水を買ってきてもらって飲む」という自己保身の行動、日頃から繰り返し行っていた飲酒運転の常習性、その反社会性・異常性が際だった事件であったと思います。

2011年10月31日 最高裁判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/743/081743_hanrei.pdf
より
『平成18年8月25日午後10時48分頃,福岡市内の海の中道大橋上の道路において,運転開始前に飲んだ酒の影響により,前方の注視が困難な状態で普通乗用自動車を時速約100㎞で走行させ,もってアルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させたが,折から,前方を走行中の被害車両右後部に自車左前部を衝突させ,その衝撃により,被害車両を左前方に逸走させて橋の上から海に転落・水没させ,その結果,被害車両に同乗していた3名(当時1歳,3歳,4歳)をそれぞれ溺水により死亡させたほか,被害車両の運転者(当時33歳)及び同乗していたその妻(当時29歳)に傷害を負わせ,さらに,(2) 上記事故について,負傷者を救護する等必要な措置を講ぜず,かつ,その事故発生の日時場所等を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった,というものである。』

2012年 福岡県は、福岡県飲酒運転撲滅運動の推進に関する条例 を制定しました。冒頭には、上記事故は当然のことながら、あの事件の後にも別の悲痛な飲酒運転事故があったことにも、条例本文で言及しています。

『本県では、平成十八年八月、飲酒運転により幼い三人の命が突然奪われるという悲惨な事故が発生し、県民は、飲酒運転のおそろしさに大きな衝撃を受け、飲酒運転は絶対に許さないと決意したところである。しかしながら、その後、法令による厳罰化が進み、取締りの努力が続けられているにもかかわらず、平成二十三年二月の男子高校生二人をはじめ犠牲者が続き、今もなお、飲酒運転事故が後を絶たない状況にある。

また、飲酒運転による検挙者の半数が再犯者と推定されていることから、残念ながら常習的に飲酒運転を繰り返す県民の存在を否定できず、現行法令により道路交通の現場において行われる取締りだけでは、現状を打破することは困難である。

このような憂慮すべき状況の背景には、飲酒運転の危険性と結果の重大性に対する社会的な認識の甘さがあることを指摘する声があり、まず、常習者の徹底的な自己啓発と県民意識、社会風土の改革が急がれるところである。しかし、一方で、飲酒運転による検挙者の中には、アルコール依存症が疑われる方も多数存在することが判明しており、このような疾病の場合には、啓発は功を奏しないとされている。

したがって、飲酒運転の撲滅のためには、取締りの強化だけではなく、まず、検挙者ひとりひとりの特性に応じた適切な予防措置を講じ、二度と飲酒運転を繰り返させないことが重要である。また、飲食店等において、運転者に飲酒をさせないための取組を進めることも不可欠である。

もはや、私たちは、県民の生命と安全が日々脅かされている事態をこのまま看過することはできない。
よって、ここに、県民が飲酒運転に至る経緯を見据えた適切な対策を講じるとともに、飲酒運転撲滅のための施策を総合的かつ計画的に推進することにより、飲酒運転のない、県民が安心して暮らせる社会を実現するため、この条例を制定する。』

あれから14年。福岡の飲酒事故を知らない若い世代が増えているという。
令和に入り、飲酒運転は高止まりの傾向である模様・・。

<福岡県の飲酒運転事故情勢(毎月更新)>
https://www.police.pref.fukuoka.jp/kotsu/kotsukikaku/alc/jiko.html

北海道飲酒運転の根絶に関する条例

2014年のこと。
北海道小樽市で、飲酒運転のひき逃げ事故にあい、3人が命を落としました。

小樽のドリームビーチ飲酒ひき逃げ事件、とも言われています。
またしても異常な飲酒状態、ひき逃げして被害者を放置したままタバコを買いに行くという悪質性に、社会は震撼し、怒りました。
https://www.city.sapporo.jp/kotsuanzen/documents/kotsu_dayori_tokubetsu2-26.pdf

2015年7月 札幌地裁の判決文 P6 判決の理由 より
『高校時代からの仲良し4人組であった被害女性らは,海水浴を楽しんだ後,家路に向かう途中,一瞬にして地獄に突き落とされるかのように,被告人の危険運転の犠牲となった。被告人は,4時間半ほど前まで,記憶をなくしたり,酔いつぶれて寝てしまうほど酒を飲み続けていたにもかかわらず,運転しても大丈夫な程度に酔いは覚めているなどと甘く考え,しかも,たばこを買いに行くなどという自分の欲求を満たすためだけの全く取るに足りない理由で飲酒運転をした。
(中略)
これだけの事故を起こしながら,被害女性らの安否を確認せず,道ばたに放置したまま走り去っている。被害者や遺族の思いは,このような悲惨な事故が,いかに多くの人の人生を狂わせ,どれだけ時間が経っても癒すことができない深い傷を与えるものかを物語るものである。今回の事件は,被害の大きさだけをとってみても,アルコールの影響による7危険運転の類型の中で,これまでの例を相当上回る重みがあると考えられるし,しかもひき逃げまでしているのであるから,被告人が被害者や遺族に謝罪していることなどを考えても,懲役22年とするのが相当である。』

北海道飲酒運転の根絶に関する条例
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/dms/kat/sdd/insyujyoureihonbun.pdf
冒頭には、小樽のことが想記されてます。

『多くの道民が北海道の地理的特性などにより車を運転している現状において、
我々は、悲惨な交通事故が被害者のみならず加害者にも大きな不幸をもたらすこ
とや、車は危険な乗り物であることを改めて認識しなければならない。「交通死
亡事故ゼロ」は、道民全ての願いである。
しかしながら、道路交通法の改正などにより厳罰化が図られたにもかかわらず、
平成26年7月13日には、3人の尊い命が奪われるなど、相次ぐ死亡事故の原因と
もなっている飲酒運転が後を絶たない。
このため、道民一人一人が、飲酒運転の根絶に向けて、「飲酒運転をしない、
させない、許さない」という規範意識を持ち、飲酒運転の防止のために自主的に
行動するとともに、道民にその規範意識を定着させるための実効性のある取組が
必要である。
一日も早く北海道から飲酒運転を根絶し、道民にとって安全で安心して暮らす
ことができる社会が実現されるようたゆまぬ努力をすることを決意し、道民の総
意としてこの条例を制定する』

砂川市飲酒運転撲滅に関する条例


2015年のこと。
小樽の被害者被害者3人の一周忌にも満たない間に、同じく北海道で、家族5人のうち4人が一瞬でなくなるという、痛ましい事故が起きました。
砂川市一家5人死傷事故、と言われています。まるで殺人事件のようですが、実際内容は、それに近いものがあります。本当に一瞬で4人がこの世から消し去られたのです。
  ・飲酒運転
  ・100km/h以上で公道レース
  ・赤信号は無視するというルール
  ・4人即死
  ・逃走
あまりの反社会的行為に、怒りしか沸いてきません。
事件名:平成27年(わ)第532号,第560号,第696号,第697号 被告人A及び被告人Bに対する危険運転致死傷,道路交通法違反(予備的訴因・被告人Aに対する過失運転致死傷,道路交通法違反,被告人Bに対する過失運転致死,道路交通法違反)被告事件

事件の現場である砂川市は、再発防止の願いをこめて、「砂川市飲酒運転撲滅に関する条例 を制定しました。

『本市では、平成27年6月6日に飲酒運転等を原因とする危険で無謀な運転により、5名が死傷する悲惨な交通事故が発生し、市民に飲酒運転の恐ろしさと大きな憤りそして深い悲しみをもたらした。飲酒運転の撲滅は、市民全ての願いである』
<砂川市飲酒運転撲滅に関する条例より>
https://www.city.sunagawa.hokkaido.jp/shisei/shiyakusho_shokuin/files/12gatuinnsyuunntenn.pdf

宮城県、福岡県、北海道、砂川市のほか、飲酒運転に関する条例を制定している自治体は、以下となっています。

2007年 大分県飲酒運転根絶に関する条例
2008年 山形県飲酒運転をしない、させない、許さない条例
2009年 沖縄県飲酒運転根絶条例
2013年 三重県飲酒運転0(ゼロ)をめざす条例


そもそも、都道府県ごとの飲酒運転者の統計は、都道府県単位で集積、分析されています。本ページでは、地方自治体ごとの飲酒運転や飲酒問題への取り組みを取り上げて、みなさんと共有してゆきたいと思います。